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『わ、見て雷士!石が浮いてる!』
〈磁力だろうね。うん…何かここ居心地良いな〉
あたし達は現在ホドモエシティを出て次の街へ向かう為、電気石の洞窟へ来ていた。
一面に電気を帯びた洞窟内部を歩いているからか、何だか雷士から発生する静電気がいつもより強い気がする…。ていうか痛い!髪がモワモワになる!
〈ぷ、ヒナタちゃんの髪の毛チリチリ〉
『ひっど!好きでこうなってるんじゃないから!』
くそぅ…普段は毛先だけ癖毛なのに今は満遍なく癖毛状態になっている。ポジティブにパーマかけたみたい!とか言おうとしたけど虚しくなりそうだったからやめた。
『まぁでも雷士みたいに電気タイプのポケモンからしたら住みやすい所だろうね。実際バチュルとかシビシラスとかいっぱいいるし』
バチュル可愛いなぁ…雷士の特性のお陰で電気タイプがよく出てくるのだけど、その中でも特にお気に入りになった。
しかも雷士が気になるのか、チョコチョコ寄ってきてくれるからまた可愛い!少しだけだけど会話も出来たし…いやぁ和ませてもらったよ。
『そんなに長い洞窟じゃないらしいからすぐ抜けられるね。そうしたらフキヨセシティだよ!』
〈フキヨセってどんな街なの?〉
『んーとね…空の街って言われているみたい。飛行機の滑走路があるんだって!あ、それとタワーオブヘブンって言う慰霊の塔、が…』
ピタリ、足が止まる。
…慰霊、か…疾風のお母さんのお墓…建てる事とか出来るのかな…。
もし出来るなら管理人さんにお願いしてみよう。出来なかったとしても…黙祷はさせてもらおう。
〈…ヒナタちゃんてさ、本当良い意味でバカだよね〉
『雷士は本当あたしの心を抉るのが上手だよね!!何良い意味のバカって!?』
(本当お人好し…。まぁそれがこの子の魅力でもあるんだけどさ)
雷士にシカトされた…。全く、昔から肝心な事はあんまり言おうとしないんだよね。
その後もあれやこれやと話しつつ洞窟を進み、とうとう出口へと辿り着いた。
『わ、眩し…っ』
〈もうお昼だから日が高いね〉
洞窟を抜けるとすぐフキヨセシティだった。情報にあった通り荷物を乗せた飛行機が飛び交い、せわしなく人々が働いている。あ、少し向こうに見えるのがタワーオブヘブンかな…?
『よし、とりあえずお昼食べようか!』
実はホドモエを出る前にポケモンセンターの室内にあるキッチンを借りてサンドイッチを作っていたのです。
せっかく良い天気だし外で食べた方が気持ち良いよね!
サンドイッチを入れたバスケットを持って良さそうな場所を探す。するとボールから蒼刃が飛び出してきた。お、何々?
〈ヒナタ様!荷物は俺がお持ちします!〉
『え、良いよーそんな!これくらい平気だし、ね?』
〈…俺は…そんなに頼りないでしょうか…?〉
『あぁああやっぱり重いかも!!ゴメンね蒼刃にお願いしちゃっても良いかな!?』
〈はい!お任せ下さいヒナタ様!〉
あぁ焦った…あたし本当蒼刃のしょんぼり顔に弱いんだって。慌ててバスケットを託したら途端に目を輝かせてしっかり抱えてくれている。
〈僕たまに蒼刃が怖いんだよね…何かヒナタちゃんに嫌われたりしたら平気で命絶ちそう〉
『ちょ、ちょっと…さすがにそれは無いでしょ』
…うん、無い…と思う。
『あ、あそこなんかどうかな?』
目についたのは木陰にあるベンチとテーブル。休憩所として使われているのかな。見た所誰も使用していないので、ありがたく座らせてもらおう。
『ありがとうね蒼刃。テーブルに広げておいてくれる?あたし飲み物買ってくるから!』
〈はい、お気をつけ下さい〉
珍しく雷士も蒼刃を手伝ってランチの準備をし始めた。あは、お腹空いてるのかな。
2人に任せてあたしは近くにあった自販機へ。何にしようかな…紅矢にはやっぱり甘いヤツだよね。疾風は意外と渋いの好きだし、蒼刃と同じお茶で良いかな。
手際良く飲み物を買い、テーブルへ戻ろうと後ろを向いたらいつの間にいたのか若い男の人が立っていた。
(わ、背高いし細くてモデルみたい…)
その整った容姿に思わず目を奪われる。するとバチッと目線が交わった。透き通った水色の瞳が綺麗だなぁ、何て思ったその時。
「…惚れた」
『へ?』
今何て…?よく聞き取れなくて首を傾げると、そのお兄さんはゆっくりあたしに近寄って両手を掬い取り、そのまま優しく握り締めてきた。
(…え、何事?)
「惚れた…惚れたぜ!アンタオレのタイプにどストライクだ!!」
…は、はぃいいいぃ!?
その日あたしは人生で1番と言えるほど素っ頓狂な声を出してしまった。
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