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『わぁ…豪華なステージだね!何か始まるのかな』
「あ…マスター、これじゃないかな…?」
疾風が指差す先には立派な看板。それにはデカデカとエレキテルファッションショーと書かれていた。中央にいる女の人は…
『…え、嘘!?』
「!?ど、どうしたの?」
『この人って…か、カミツレさん!?そうだよここってライモンシティじゃん!会えるチャンスがあるんだー!』
うわーあたしのバカ!遊園地で頭がいっぱいでこの事を忘れていたなんて!
「ま、マスター…?」
『あのね疾風!この人はカミツレさんって言って、イッシュを代表するカリスマモデルなの!テレビでしか見た事ないんだけど…すっごく素敵なんだよ!』
「っそ、そう…なんだ…?」
カミツレさんが出るならそりゃ皆集まるよね!うんうん、あたしも絶対見よう!何か疾風がドン引きしているけどゴメンね!
『疾風!あたし達も並ぼう!お願い!』
「う、うん。マスターが、言うなら…」
やったー!女の子の憧れカミツレさんが見れる!雷士とか紅矢が今のキラキラしたあたしを見たら絶対に毒吐くだろうな…。
「――さぁ、皆様お待ちかねのスペシャルショーを開催致します!」
司会のお姉さんがステージで開始を告げると、アップテンポな音楽と共にお洒落な衣装に身を包んだモデルさん達が颯爽とステージを歩き出した。
『細っ!何したらあんな体になれるの!?お肌ツルッツルだし羨ましい…!』
「ま、マスターだって、綺麗だと思うけど…」
『やだなー何言ってるの疾風くん、あんな別世界の人達と比べてもあたしなんかに勝ち目ないってば!でもお世辞ありがとうね!』
(お世辞、じゃないんだけどなぁ…?)
何か疾風が難しい顔をしていたけどゴメン、今はそれどころじゃないんだよ…!
初めて目の当たりにするスポットライトを浴びる世界。周りの人達も皆目を輝かせている。
と、一際大きな歓声が上がり現れたこのショーの主役…ライモンシティジムリーダーのカミツレさん!
「ようこそ…皆のこと痺れさせてあげるわよ」
バサッと長いコートを取り払い、可憐にウインク。もう…あたしはダメです。
『カミツレさん素敵―――っ!!』
あぁ、何てカッコ良い人なんだろう!自信に溢れた立ち振る舞いは誰が見ても魅力的だ。
カミツレさんがステージを歩けばボルテージは最高潮。そんな時あたしを含め騒ぐ人々の声に起こされたのか、雷士がボールから出てきた。
〈ちょっと何…、メチャクチャうるさいんだけど〉
『雷士!雷士も一緒にショー見ようよ!』
〈ショー…?〉
眠たげに目を擦り、定位置であるあたしの頭によじ登る。一応見てはいるけれどやっぱり興味なさそうだね…。
『おーい雷士くん、焦点合ってますかー?』
〈合ってるよ…ていうかあの人確か前ヒナタちゃんがテレビ見て騒いでた人だよね〉
『あ、覚えてたんだ』
1つ大きな欠伸をして顎をあたしの頭に乗せる。あは、何だかんだ見てくれるんだ。
ステージへ視線を戻すと、カミツレさんが進行の人からマイクを受け取り張りのある声で告げた。
「今日は特別にこのステージ上で私が指名したトレーナーとポケモンバトルを行いたいと思います。あくまで魅せるショーの一環だから正式なジム戦ではないけれど…皆付き合ってくれるかしら?」
カミツレさんがマイクを観客へ向け問い掛けると、会場にいる全員が大きな声で盛り上げる。そりゃそうだよね、こんな機会滅多にないもの!
カミツレさんに指名してもらえるばかりか、同じステージに立ってバトルまで出来るんだから。
皆ワクワクしながらステージを練り歩き1人1人見定るカミツレさんを見つめている。あぁ、どうしよう選ばれちゃったら!
「…あら?」
…え?もしかして今目が合ってる!?カミツレさんはニコッと微笑み、確かにあたしに向けて手を差し出した。
「特別なショーバトルのお相手は、頭に可愛いピカチュウを乗せているこちらのお嬢さんに決めたわ。さぁ、ステージに上がって!」
キタァアアアア!!痛い!ほっぺ摘んでみたけど夢じゃないよ!!
『ありがとう雷士!雷士のおかげだよー!』
〈何の話?〉
カミツレさんは電気タイプの使い手だからきっと雷士を気に入ってくれたのだろう。あたしは嬉々としてステージへと上がった。連れと言う事で人型の疾風も一緒にね!
前にホミカちゃんとライブステージに上がった時の賜物か、大勢の人前に立つのには少し耐性がついた気がする。
『…よっし!疾風、華麗にバトルデビューといきますか!』
「えぇ!?ぼ、ボク…!?」
…やっぱりいきなりこの大勢の前じゃ可哀相かな。気が強い方ではないし…
『あは、さすがに突然だったね。ゴメンゴメン、じゃあ雷士に…、』
「…やる、よ」
『え?』
不意に疾風が一言呟き擬人化を解く。途端にザワめく会場…でも擬人化自体は珍しい事ではないからすぐに収まった。
『疾風…やってくれるの?』
〈う、うん!ボクだって、マスターの為に戦える!〉
バッと羽を広げあたしの前へとスタンバイする。まだしっかりと飛ぶ事は出来ないけれど…昴との修行のおかげか随分様になった。
「…ふふ、アナタも魅せてくれるわね。それじゃあアナタと私のポケモン…共に輝きましょう!」
高らかに放り投げられたボールから飛び出したのはエモンガ。ほっぺからパチパチと火花を散らしてやる気満々だ。
『うわっエモンガ可愛い…!でもでも顔だけだったらウチの雷士だって負けてないですよ!』
〈顔だけって何、顔だけって〉
バシッとお得意の尻尾パンチを食らわされた…痛い。
『と、とにかくせっかくのカミツレさんとのバトルなので精一杯いきます!そして出来たら勝ちたいです!』
「勿論本気で来て頂戴。けれど私だって手加減しないわよ?さぁ…行くわよエモンガ!」
グッと拳に力を入れあたしも気合いをいれる。疾風のデビュー戦…勝ちたい!
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