long | ナノ







3

蒼刃は何となく予想出来たけれど疾風は全くの予想外だった。如何にも絶叫系苦手そうだと思っていたのに…実はメチャクチャ強かったみたい。


『はー…大分楽になった。ありがとねー疾風』

「う、ううん。良かった!」


吐き気は引っ込んだからもう大丈夫だろう。ちなみに完璧ダウンの蒼刃は再びボールへと戻ってもらった。蒼刃もありがとう…健闘を讃えるよ。


『よし、じゃあ次はゆったりしたヤツ行ってみようか!何が良いかなぁ…』

「…ねぇマスター、あれは何?」

『あれ?』


疾風が指差す先にあるのはやたら薄暗くおどろおどろしい雰囲気を醸し出した建物。所々崩れ落ちた壁や屋根、鬱蒼と蔓延る植物のツタがそれに拍車をかける。

…間違いないよね、あれって…


『…お化け屋敷、ってヤツかな』

「お化け屋敷?」


うわ…あれは行きたくないな…お化けとか怖いし苦手だし、絶叫系得意な疾風だってさすがに無理でしょ…。元々少し気が弱い子だし。


「お化けって事は…こ、怖い所なんだよね。だったら、やだなぁ…」

『うんうん、そうだよねやっぱり。あたしも無理だから別のとこ行こうか!』

〈何言ってやがる、メチャクチャ面白そうじゃねぇか〉

『わぁあああお化けより怖い人出たぁあああ!!』


え!?いつの間にボールから出てきたの紅矢!?そしてよりによって何でこのタイミング!?


〈目覚めたらたまたまあの建物が目に入ってな…。勿論行くだろ?ヒナタ〉

『え、いやいや無理です行かな〈行くよなぁ?〉はい喜んで!!』


テメェ今すぐ焼き尽くされてぇのかと言いたげに睨まれたら、もうあたしにはイエスと言うしか生きる道は無い。あぁああ…ノーと言えない自分の意気地なし!


「ご…ごめんマスター、一緒に行ってあげたいけどちょっと無理、かな…」

『良いよ…疾風は何も悪くない。ジェットコースターありがとうね…』


大変申し訳なさそうにボールへと戻っていく疾風を涙を呑んで見送る。あぁ、もうこれであたしの行き先は地獄しか無い。


「おら、とっとと行くぞ。グズグズしてんじゃねぇよ」

『ま、待ってよ紅矢!』


いつの間にか擬人化してズンズン行ってしまう横暴キングもとい地獄の案内人を追いかけ、お化け屋敷の入り口へ走った。

それじゃあ皆…逝ってきます。




−−−−−−−−−




『ひぎゃあぁあああ!!』

「テメェもう少し色気のある悲鳴は上げられねぇのか」

『無理!無理!こんな所で色気なんて求めないで!あたしだって欲しいよ!!』


inお化け屋敷with横暴キング。何それ超帰りたい。だって紅矢ってばわざと驚かせてくるし、それに叫ぶあたしを見て満足げに笑っている。


『もう本当やめてって…!』

「あぁ?ちっ、分かったよ…お、テメェの後ろに血だらけの女がいるぜ」

『いやぁあ"ああぁ!!』

「はっ、イイ顔だなヒナタ!」


あぁもう誰かあたしに紅矢を殴る勇気を下さい…!泣き喚くあたしで最高に楽しんでるよこのワンコ!


(もう嫌だ…絶対寿命10年くらい縮んだ…)


ぐすぐす鼻を鳴らしながら紅矢の後ろについて歩いていると、突然立ち止まってあたしをジッと見下ろしてきた。


『…?な、何?まさかこれ以上あたしを追い詰める策を思いついたんじゃ…!』

「それも良いが…まぁ今回はこんくらいにしといてやる。ほらよ、俺の優しさに感謝しやがれ」

『え…!?』


突如強く引っ張られる体。…紅矢が…あたしの右手を握っている。


『ちょ、えっ!?』

「何狼狽えてんだよバカが。テメェがグシャグシャな顔してるからこうして繋いでやってんだろうが」

『グシャグシャって!いや確かにそうだけどあなた本当に紅矢ですか!?途中で紅矢とすり替わったお化けとかじゃないですか!?』

「顔面にかえんほうしゃ喰らわせてやろうかクソガキ」

『良かった本物の紅矢様だ!!』


確認の仕方が悲しいけど仕方無い。だってそのくらいビックリしたんだもん。

大きくてゴツゴツした手は暖かい。それに強すぎない握り方で何かこう…安心してしまう。


(…何だ、ヒウンから戻る船でも思ったけど…意外と優しい所あるんだね)


思わず口元が笑ってしまった。紅矢は気付いてないみたいだけれど…。


「…おいヒナタ、テメェさっきの泣き顔…他の野郎に見せんじゃねぇぞ」

『え?何で?』

「うるせぇ、俺が見せんなっつったら見せんな。分かったな」

『何それ横暴…いだだだだ!!かしこまりましたゴメンなさい!』


思いっきり繋いだ手を握られて骨が悲鳴を上げる。ちょっと痣になったらどうするの!?…とは怖いから言えない。

優しい所もあるのにやっぱりよく分からないなぁ紅矢は。まぁでも…今は恐怖を拭ってくれたこの手に感謝しているよ。



…そう思っていたのに出口付近になって、後ろからお化けが大量に追いかけてくる!なんて言って脅かしてきた紅矢が一番恐ろしい。

思わず手どころか腕ごと紅矢にしがみついてしまったけれど、それを見た紅矢は何だか満足そうだった。

…何で?




まぁそんな目に遭ったにも関わらず、まだまだ遊園地を満喫する気満々なあたしなのであった。


to be continue…


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