long | ナノ







2

オドオドと周りを見渡しつつ、控えめに提案してくれたのは言わずもがな疾風。

…え、本気で?いやいや嬉しいけどもね。


『は、疾風…本当に一緒にジェットコースター乗ってくれるの?』

〈う、うん!あんな速いものがあるんだって、ビックリしたけど…頑張る!〉


聞けば生まれてこの方リゾートデザートから出た事が無いため、ジェットコースターなんてものは見るのも初めてらしい。まぁそうだろうね…。

ボールの中から会話を聞いていた疾風はあたしが寂しくない様に出てきてくれたとの事。やだこの子可愛い…!


『ありがとう疾風ー!じゃあお願いしようかな!』

〈うん!ま、任せて!〉

〈お、お待ち下さいヒナタ様!それならば俺も…!〉


慌てた様に蒼刃もボールから飛び出してきた。どうしたんだろう、疾風だけじゃ心配なのかな?


『んー…でもね蒼刃、あのジェットコースター1台2人乗りだから別々になっちゃうけど良い?』

〈…え、〉


そう、2人横に並んで発車する。ならば順番でいくと蒼刃だけ別の台…おまけに赤の他人と乗る事になる。


『まぁ2回乗れば良いだけの話ではあるんだけどね。最初は疾風で次蒼刃とか…』

〈…っわ、分かりました!必ず耐えてみせます!(ヒナタ様の隣りに座る為ならば…!)〉


な、何か蒼刃が燃えてる…!1回目は乗らずに待ってる?と聞いたら、あたしの背後をどんな状況でも守るのも役目だとよく分からない事を言い出したから一緒に乗る事になった。…騎士道精神ってヤツ?


〈…あ、マスターと同じ姿じゃないとダメ、だよね〉

『ん?』


足元の疾風を見下ろした瞬間、目の前が光に包まれた。直後あたしの視界に映ったのは…



「ど…どうかな、ボク、変じゃない?」



サラッサラな緑色の髪をした美少年でした。



『…くはぁっ!!』

「ヒナタ様!?」


おっと…あまりの麗しさについ目眩がしてしまった。次いで擬人化した蒼刃がフラついたあたしを受け止めてくれたから倒れずに済んだけれど…。


「ま、マスター…!?やっぱりボク、変なのかな…?」

『いやいやとんでもないです!予想以上の美少年っぷりにビックリです!』

〈ヒナタちゃん気持ち悪い…〉


あれ、何か今ボールの中から辛辣な言葉が聞こえてきた様な…。まぁ良いや気にしないでおこう。


「く…!おのれ疾風、ヒナタ様に気に入られるとは…っ」

「?」


何故か疾風を悔しそうに睨みつけている蒼刃にあたしもハテナマーク。あ、もしかして疾風の美貌に嫉妬?確かに疾風キレカワだけどね!


『でも大丈夫、蒼刃も充分女の子の需要に応えてるから!凄くカッコ良いと思うよ!』

「っヒナタ様ぁああああ!!」

「そ、蒼刃…何か怖い…」


…とまぁこんなノリでジェットコースターへ向かったわけだけど、道中が何だか物凄く辛かった。

美形2人に挟まれ歩くあたしを見る女の子達の目がね、こう…歴戦の猛者と言うか凄腕暗殺者と言うか。

勿論ただの好奇の目で見ている人もいたけれど大半は痛い視線だった。あぁ…美形の手持ち達っていうのも辛いものがあるんだね。


それで、何とかそんな視線にもめげず早速ジェットコースターに乗ったのだけど…




『うぇええ…っ!!』

「だ、大丈夫マスター…!?」


うっぷ…何アレ、速過ぎでしょあのジェットコースター…!絶叫系は苦手じゃないはずなのにこの吐き気は異常だよね!?


「ヒナタ様…申し訳ありません、俺はここまでの様です…。出来るならもっと…貴女のお傍に…っ」

『ダメぇえええ!!何その今生の別れみたいなセリフ!!大丈夫だってさすがに死にはしないから!!』


やっぱり蒼刃ってば無理していたんだね…!あまり弱音を吐かない彼がこれだからよっぽどキツかったらしい。


『ていうか…よく平気だね疾風…』

「え?う、うん…何でだろう?」


心配そうにあたしの背中を撫でてくれる疾風は優しい。これが紅矢だったらまず大爆笑されているだろう。…あ、悲しくなってきた。


prev | next

top

×