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『ビブラーバく…あれ?』
〈…お姉さん〉
庭に出る縁側へ行くと、1匹で夜空を見上げているビブラーバくんがいた。
『あの…ビブラーバくん、どうしたの?こんな所で』
〈…あはは、ちょっとボーッとしてた…〉
ボーッとと言うか考え事でもしていたんじゃないかな…?何だか疲れた顔をしている。
『そっか…あ、隣り座ってもいい?』
〈う、うん!どうぞ〉
腰を下ろしてあたしも同じように空を見る。そこで今日の成果を聞いてみた。
『…ねぇ、今日1日どうだった?昴とは上手くいった?』
〈う、うん、昴は凄く分かりやすく教えてくれたよ。だから、言っている事は分かる…でも、ボクが鈍臭いから…。完璧には、飛べなかった〉
目を伏せてしまうビブラーバくん。あぁ、やっぱり難しいんだなぁ…。
『…まだ今日始めたばかりだから仕方ないと思うよ?ビブラーバくんはすごく頑張っていたし…絶対飛べるよ!』
〈…昴も、そう言ってくれた。後は自分を信じるだけだって。それが出来たら…ボクも、飛べるのかな〉
自分を信じる事…言葉で言うのは簡単だけどきっと難しい事だ。でも確かに自信をつけなければトラウマを克服する事は出来ないのだろう。
『焦らなくていいよ、少しずつ飛べるようになっていけばいいと思うから』
慰めるように彼の頭を撫でる。しばらくジッとしていたビブラーバくんは、ゆっくり目を開けてあたしを仰ぎ見た。
〈…ね、ねぇお姉さん、お願いがあるんだけど…〉
『ん?何々?』
〈ボクを…正式に、仲間にしてほしいんだ〉
『…え、』
〈ぼ、ボク…あまりバトルはした事ないから強くないかもしれないけど、きっと役に立ってみせるから。ダメ、かな…?〉
彼からの突然の提案にビックリしたけれど、不安そうな顔を見て慌てて否定する。
『だっダメじゃないよ全然!でも…どうしてそんな事…?』
〈えと…は、恥ずかしいんだけど…お姉さん達を見てて、羨ましくなったんだ。すごく仲良しで、楽しそうで…お母さんがいなくなってから、ずっと1人ぼっちだったから、かな…〉
楽しそう…そんな風に見えていたんだ。全然楽しくない時もあるけれどね、主に雷士か紅矢に虐められている時とかね。
〈そ、それとね、一緒に旅をすればこんなボクでも、強くなれるんじゃないかって。その中で飛べるようにもなって…ボクを信じてくれてるお姉さんを、背中に乗せて飛びたいんだ。そうしたらきっと…お母さんも、喜んでくれる〉
『…!』
照れ臭そうに頬を染めるビブラーバくんにあたしは胸キュン。ビブラーバくんの大きさじゃ人間1人乗せるのは難しいかもしれないとかそんな野暮な事は言わない!
ゴメン、本人真剣な話してるのに悶えてる浅ましいあたしを誰か殴って…!!
〈お、お姉さん…、無理にとは、言えないけど…〉
『無理じゃない、無理じゃないよ!こちらこそよろしくお願いします!』
〈ほっ本当…!?ありがとう…!〉
この子はきっと強くなる。昔ハル兄ちゃんが、最後に誰よりも強くなるのは優しい子だって言っていたから。あたしはそんな君に願いを込めよう。
『…よし、君は今から疾風ね!』
〈はやて…?〉
『いつかきっと、風よりも何よりも速く大空を飛べるようになると思うから、だから疾風。嫌かな?』
〈う、ううん!嬉しい…!あ、あの、じゃあボクも…マスターって呼んでいい?前に砂漠で見かけたポケモンが、トレーナーのことをそう呼んでて、カッコ良いなって思って…〉
『あは、勿論!これからよろしくねー疾風!』
〈うん!マスター!〉
お互い顔を見合わせ握手する。疾風の手…前足?は細くて不思議な感触だった。
『それじゃそろそろ寝ようか。明日は早いしね!』
〈うん!〉
2人並んで部屋へと向かう。夜風が優しく頬を撫でて気持ち良かった。
−−−−−−−−
『…と、言うわけでこれからも一緒に来てくれる事になりました疾風くんです!』
〈まぁこうなるとは思ったけどね〉
〈はっ…甘ちゃんだな相変わらず〉
〈口を慎め紅矢!ヒナタ様がお決めになったことだ。改めてよろしく頼む、疾風〉
〈よ、よろしく!〉
明朝食卓にて皆に疾風を紹介した。疾風は少し緊張していたようだけど…蒼刃の差し出した手に安心したみたい。
「良かったねビブラーバ…じゃなくて疾風。ヒナタを頼んだよ」
〈が、頑張ります!〉
ハル兄ちゃん達面々とも挨拶を済ませ、いよいよ出発。澪姐さんの計らいで途中まで昴が乗せてくれる事になった。昴はムクホークの中でも体の大きい個体で、あたし1人くらいならば特に問題なく運べるらしい。
「じゃあねヒナタ。くれぐれも無理はしない事、分かった?」
『うん!ハル兄ちゃんも学会いってらっしゃい!』
見えなくなるまで見送ってくれる彼らに心が暖かくなる。絶対また良い情報を持って帰るからね!
こうして新しい仲間…疾風を加え、あたし達はソウリュウへと旅立った。
to be continue…
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