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『うぇええ…っ』
〈ちょ、冒頭から何吐いてるのヒナタちゃん汚い〉
『まだ吐いてないよ!ひどっ!雷士ひどっ!ただ気持ち悪いだけだし!』
〈何で?〉
『久し振りに斉にメリーゴーランドやってもらったら思いの外キツくて…ぅっ!』
〈なるほど、バカだねヒナタちゃん〉
辛辣だね雷士くん…。一応トレーナーが吐き気を催しているのにのんびりテレビを見始めた。
ちなみにメリーゴーランドというのは両脇を持ち上げてグルグル回すヤツね。斉は力持ちだから昔よくそうやって遊んでもらったのだけど…久し振り過ぎて体がついていけなかったらしい。
そんなこんなで呻いているあたしの元へ、斉のスペシャルスイーツを堪能した紅矢がやってきて一言。
「悪阻かヒナタ」
『セクハラ!紅矢セクハラ!』
「何やとぉおお!?おいコラ紅矢!お前何かましとんねん!お嬢にセクハラしていいのはワイだけや!!」
「んなわけないでしょ全人類及びポケモンの為に塵になりなさい樹」
「全人類!?ワイの存在はそんな罪なんゴハァッ!!」
華麗な回し蹴りで樹を吹っ飛ばす澪姐さんには誰も適わないだろうな…。タイプ相性としては樹の方が有利なのだけどね。
「それから紅矢もよ!私の可愛いヒナタちゃんにセクハラなんて万死に値するわ」
『え、そこまで?』
「はっ…コイツは俺のモンなんだよ。性悪女が口出しすんじゃねぇ」
『わ…!?』
え、何この状態。突然紅矢に抱き寄せられて胸に収まる形になる。あ、誤解しないでね澪姐さん!紅矢はあたしの事奴隷としか思っていないから!
「…うふふ、寝言は寝て言いやがりなさいクソガキ。凍らされるか地平線の彼方まで水に流されるか…どちらか選ばせてあげるわよ…!」
「はっ、上等じゃねぇか!返り討ちに遭うだけだぜババァ!!」
ど う し て こ う な っ た
何故かあたしを挟んで火花を散らす美男美女。というかババァとか言っているけど澪姐さん外見年齢含め20代だからね。確かに紅矢よりは年上だけれどババァはないでしょ全く!
一触即発な空気に巻き込まれ冷や汗を流すあたしを救ってくれたのはハル兄ちゃんだった。
「ヒナタ、もうじき夕飯だけど…まだビブラーバ達は庭にいるのかな」
『あ…じゃ、じゃああたし見てくる!』
ナイスだよハル兄ちゃん!睨み合う2人の間をかいくぐって庭へと向かう。もう外は薄暗い…そろそろ中に入ってもらわないと。
『!』
〈っはぁ、はぁ…!〉
〈…ここらが限界だな。オレが教えてやれる事はもう無いぜ、ビブラーバ〉
乱れた羽根と荒い息で特訓の激しさが伝わってくる。ビブラーバくんの表情を見る限り…上手くはいかなかったのかな…?
『…昴!ビブラーバくん!夕飯だよー!』
〈!ほら、ヒナタが呼んでる。行こうぜビブラーバ〉
〈う…うん〉
擬人化してリビングへと向かう昴。対してビブラーバくんは…やっぱり何だか晴れない顔。
『…行こっかビブラーバくん!』
あたしを見て弱々しく笑うビブラーバくんに心を痛めつつ、軽く埃を払ってあげてから一緒にリビングへと向かった。
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