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何故かガッシリと握手まで交わしているハル兄ちゃんと雷士を微笑ましく見つめていると、突然あたしの背後から大きな衝撃が走った。
『きゃあっ!?』
「アカン!やっぱアカン!行かんといてお嬢ぉおお!!」
グリグリと擦り付けられる鮮やかな緑の頭。いやでもね、とてつもなく…く、苦しい…!
「あ…離れた方がいいよ樹」
「何言うとるんや旦那!可愛いお嬢が遠いところに行こうとしとるん黙って見送れるワケないやろ!?ワイのこの燃えたぎる愛はどないせぇっちゅーねん!」
「いやそうじゃなくて…」
「…っい〜い加減にしなさいこのウジ虫野郎がぁ!!」
「ぎゃあぁあ!?」
〈バカだね相変わらず〉
『いやいやもうちょっと心配してあげようよ雷士くん!』
耳を塞ぎたくなる様な鈍い音を立てて緑色のお兄さんが床をのたうち回る。殴った本人はそれでも少しもスッキリしていないといった風に目尻を吊り上げた。
「何すんねんこの怪力女!頭蓋に穴開ける気かい!」
殴られた方…ジュカインの樹は涙目になって頭をさする。相当痛かったんだろうね…お察しします。
「誰が怪力よアンタ凍らされたいの!?全くみっともないわね…女の旅立ちくらい男なら黙って見送ってやりなさい!」
羨ましいほどくびれた腰に手をかけ樹を見下ろす美人さんはシャワーズの澪姐さん。このお姉さんより色々な意味で強い女性をあたしは未だ知らない。
「やれやれ…騒々しいな。ヒナタの門出だって言うのに。なぁ昴?」
「何かもう本当アホだよな樹って…澪に勝てる訳ないのによ」
逞しく鍛えられた大きな体に不似合いなピンクのエプロンをしてキッチンから出てきたニドキングの斉。相変わらずあの姿にはどういうリアクションをしていいか分からないよ笑っていいの?
そして斉の隣で悪態をつくのはムクホークの昴。皆擬人化しているけれど立派なポケモンです。
昴のフワフワと柔らかい髪が綺麗で『やっぱり昴の髪は綺麗だね!』と言ったら高速でそっぽを向かれた。光の速さだったよ何で!?
「何こんな時までツンデレ発揮してんのよ昴。顔真っ赤にしてかーわいいわねぇ?」
「う、うっうるせぇ!べっ別にオレはヒナタにほ、褒められたからってうっ嬉しくなんかねぇんだからな!!」
(何か…ライバルやけれどもホンマ可愛いなぁコイツ…)
『何でどもってるんだろう昴?』
〈ヒナタちゃんは気にしなくていいよ〉
斉、昴、澪、樹はハル兄ちゃんのポケモン。家事や研究の手伝いをしていて、あたしの大事な家族達なんだ。離れるのはやっぱり寂しいけれど…今は少しだけお別れ。
『皆、あたしもう行くよ。細めに連絡入れるし定期的に帰ってくるから心配しないで?』
「ぅう…っほ、ホンマやな?絶対やでお嬢!」
「気をつけて行くんだぞ。寂しくなったらいつでも帰って来いよ」
「悪い男に捕まっちゃダメよヒナタちゃん!いい?もし痴漢なんかが出たら急所を蹴り上げて地中に生き埋めにしてやりなさい!」
『え、怖っ!さすがに無理だよ澪姐さん!』
「お、オレはそうでもねぇけど…お前がど、どうしても会いたいってなら…飛んでって、やる」
「はは、愛されてるねヒナタ。やっぱり心配だけど…君が決めたことなら応援するよ。行ってらっしゃい!」
『うん、ありがとう皆。行ってきまーす!』
一瞬雷士があたしの髪を強く握り締めたのが分かった。
不安なのかな?それとも楽しみなのかな?
あたしも同じだよ、不安な気持ちもあるけどワクワクして堪らない。
こうして逸る気持ちを持て余す様に、あたし達は大きな一歩を踏み出した。
to be continue…
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