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『っはぁ…間に合って良かった…』
なけなしの運動神経をフルに使ってヒウンの街中を走り、何とか船に乗る事が出来た。
ざっと見回す限り、どうやらあたし達以外に乗客はいないらしい。ガランとした船内を抜けデッキへと出る。今日は着船地のタチワキのポケモンセンターに泊まろうかな。
『らーいーと、夜景が綺麗だよー。起きてー』
〈ん…無理、眠いおやすみ〉
『ちょ、船着いたら起こしてって言ったよね!?』
再び眠り始めてしまった雷士に思わずため息。けれどあまりにも気持ち良さそうだからソッと頭から降ろし、着ていた上着で包む様にくるんで抱き締める。
(いつも移動中は頭の上で寝ているけど…こうした方が寝心地は良いよね、多分)
ほんのり暖かい雷士の頭に軽く顎を乗せ、チラリとボールの中を覗くと蒼刃もビブラーバくんもお休み中だった。今日はいっぱい歩いたしね…お疲れ様!
そして紅矢はどうかな…と確認しようとした時、突然勢いよくボールが開き本人が飛び出してきた。
『わっ!?ど、どうしたの紅矢』
〈あぁ?出てきちゃ悪いのか〉
『とんでもないですゴメンなさい』
一体何なのこの理不尽っぷりは。見た目は可愛いのに…あ、目つきは最恐だけれど。ガン飛ばしただけで小さなポケモンは逃げちゃいそうだからね。
〈…ヒウンを出たのは初めてだ〉
『え?そうなの?』
〈俺は前のトレーナーを捨てたんだよ。ヒウンは人間が多いからな…紛れるにはもってこいだったんだ〉
『へー、そっか…ってえぇえええ!!』
〈んだようるせぇな噛むぞ!!〉
『いやだって紅矢がサラッと衝撃的な事言うから!初耳だもんトレーナーがいたなんてさ!!』
〈当たり前だろ今初めて言ったんだからよ!〉
『開き直り!?』
〈ヒナタちゃんうるさい〉
『いだっ!ご、ゴメンなさい!』
〈はっ、自業自得だ〉
うぅ…2人してあたしを苛める…。確かに大きな声を出してしまったけれど何も尻尾で思いっきり叩く事ないじゃん雷士…!それに紅矢だって同罪じゃない今の!?
『…て、ていうか、何でトレーナーを捨てたの?』
〈見限ったからだ〉
見限った…?どういう事だろう。
星空を見上げる紅矢の横顔がどことなく空っぽと言うか…何となく悲しそうな表情にも見えた。
〈最初はマシだった。俺もあの頃はまだガキで、ただ強くなる事だけを考えていた。だがバトルする度に強くなっていく俺に、アイツはいつしか依存するようになっていったんだ〉
頼るばかりで自分を磨く事はしない。どんなに疲弊していても負ける事は決して許さない。それどころか勝ち取った勝利を自分だけのものと勘違いし陶酔する。
〈醜かったぜぇ?どんどん堕ちていくばかりの野郎はよ。だから俺はアイツを捨てた。しばらくは血眼になって探していたみてぇだが…いつしか見なくなったな。まぁ諦めたんだろ〉
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