1
「あそこだヒナタ!」
『!』
雷士が聞いたという叫び声の主を探してリゾートデザートを走った。するとだいぶ奥地まで来てしまったみたい。リゾートデザートって周りは崖になっているんだ…初めて知った。
〈あ…ほら、アイツじゃないかな〉
『あれって…ビブラーバ?』
そう、あたし達の目の前でオロオロとしていたのはビブラーバ。ガラス玉の様な目が綺麗だ。それにしてもこんな所で何をしているのだろう?
『ねぇねぇ君、崖の下に何かあるの?』
〈へっ!?〉
あらら、非常に驚かせてしまったみたいでゴメンなさい。大きな目を更に見開いて勢い良く振り向いたビブラーバに苦笑する。
『こんなところ覗き込んでいたら危ないよ?』
〈っで、でも…!〉
「崖下に何かあるのかい?」
『え?』
Nさんの言葉を聞いてビブラーバが再び絶壁を覗き込む。そうか、何かを落としてしまったのかもしれない。
〈お母さん…っ〉
『…お母さん?』
〈…!?今、ボクの言葉…〉
「驚くかもしれないけれど…ボク達はキミの声が聞こえるんだよ。そしてキミはお母さん、と言ったね?一体何があったんだい?」
ポケモンの言葉が分かる人間には初めて会ったのだろう。 一瞬口をあんぐりと開けて固まってしまったけれど、すぐに我に返って事の次第を説明してくれた。
〈あ、あの、ボクの宝物が…風に飛ばされて、落ちちゃったんだ。あそこに引っかかってるんだけど…〉
あそこ、と彼が言うまま下を覗くと正しく断崖絶壁。思わず背筋が凍ったけどビブラーバを不安にさせちゃいけない。
それには丁度紐のようなものがついているのか崖の出っ張りに引っかかり、風に吹かれながらゆらゆら揺れていた。
(何だろうあれ…紙みたいだけど遠くてよく見えないなぁ)
〈ねぇ君、ビブラーバでしょ?飛べるんだから取りに行けば良いんじゃない?〉
雷士の言葉になるほど、と思ったけれど。ビブラーバがあまりにも悲しげな顔をしたから何も言えなかった。
『ビブラーバ…?』
〈…っボク、飛べないんだ。情けないよね…ちゃんと、羽根もついてるのに…〉
確かにこのビブラーバにはちゃんと立派な羽根が生えている。けれど飛べないと言うには何か理由があるのだろう。
〈とっても大事な物なのに…っどうしてボクは、こんななんだろう…〉
ポタポタと透明な雫が砂に落ち、色を変えて消えていく。
…ビブラーバが、泣いている。飛べない事が悔しいのだろうか。それとも宝物を落とした事が悲しいのだろうか。
理由はどうであれ、この子を放っておく訳にはいかなかった。
prev | next
top
|