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〈ヒナタ様…昨日のお怪我は大丈夫ですか?〉
『平気だよ!蒼刃こそ大丈夫?』
〈俺ならば全く問題ありません!ただ…あの男の牙から貴女をお守りする事が出来なかったのが無念でならないのです〉
何だか進化してより堅苦しい言葉遣いになった様な…。でも心配してくれるのは嬉しいから素直にお礼を告げる。
『大丈夫だって!蒼刃は勝ってくれたし何も謝る事なんかないよ?』
〈まぁでも貫通しなくて良かったよね。(もしヒナタちゃんの指に風穴空けたりなんかしたらその場でアイツを感電死させる所だったよ)〉
『あれ、今何か雷士から不穏な心の声が聞こえた様な』
〈気のせい気のせい。早く先に進もうよ〉
…そっか、気のせいか…それなら良いけれど。本当はまだ少しだけ痛む右手をチラリと見る。
昨日あたしのアイスを奪ったガーディ、蒼刃に吹っ飛ばされたけれどあの後大丈夫だったのだろうか。物凄くガラの悪い子だったなぁ…あ、でも擬人化した姿を見る限りでは年上だろうけれど。
とにかくどこかで傷を癒していたら良いんだけどね…。
ちなみにあたし達の今日の予定はヒウンシティを抜けてリゾートデザートへ行く事。そこにある古代の遺跡の調査をするんだ!
…と言っても写真を取ったり見た物を紙面に記録したり、少しだけサンプルを貰う程度のものだけれど。
「あれぇ…?そのコ…ピカチュウ?」
『え?』
何であたしは背後から声をかけられるパターンが多いんだろう。あれか、やっぱり雷士を連れているからかな。もうあまり驚きもしなくなって普通に振り向く…と、違う意味で驚いた。
「やっぱりそうだ!珍しいコを連れてるねぇ」
は…っ派手!!何この人サーカスの人か何か!?1人エレクトリカルパレードなんだけどぉおお!!
〈ヒナタちゃん、君こそ心の声丸聞こえだよ〉
(驚いた顔もお可愛らしいですヒナタ様…!)
ゆるふわなパーマに細身の長身。大道芸の様な鮮やかな服に身を包むその人は凡人離れしていた。
「んぬん…!そうそう、この街でプラズマ団を見かけたって情報が入ったんだ。君も気をつけなよ、ピカチュウは少し目立ってしまうかもしれないからねぇ」
え?プラズマ団が…この街に?一体何をしているのだろう。確かに気になるよね。
「あ、ボクはアーティ。このヒウンシティのジムリーダーだよ、何かあったら頼ってねぇ」
雷士の頭をポンポンと撫で、クルリと方向転換し去っていく。あの人がジムリーダーなんだ…。大道芸人とか思ってゴメンなさい!
『…よし、とりあえず先に進もうか』
プラズマ団なんて出来たら会いたくない。けれどもし会ってしまったら見過ごす訳にもいかないなぁ。
〈プラズマ団とはあの時の男の事ですね。用心しましょうヒナタ様〉
『そうだね、バトルになったらお願い2人共!』
当然、と言った風に雷士が尻尾であたしの後頭部を軽く叩き、隣りを歩く蒼刃は口元に笑みを浮かべる。うんうん、頼もしい仲間達だ。
そしてあたし達は歩き続けて路地を抜け、4番道路へと繋がる公園に到着した。
『あ、自販機がある。丁度喉渇いてたし何か買おっか!』
公園に3台立ち並ぶ自販機。色々な種類の飲み物があって迷ってしまうけれど…甘い物好きなあたしはモモンジュースにした。それも2本。残りはまた後で、だ。
早速開けるとプシュッと軽快な音を立て、濃厚な甘い香りが広がってくる。
『ん〜っ美味しい!蒼刃も飲む?』
〈!?し、しかしこれは…(間接キス、というものでは…!)〉
あたしが差し出したジュースを凝視しながらしどろもどろな反応を繰り返す蒼刃。…え、そんなにあたしが口付けたヤツは嫌なのかな。
〈…蒼刃が要らないなら僕に頂戴〉
『あ、そう?じゃあはい』
〈あ…!〉
どうやら雷士も飲みたかったらしい。受け取らない蒼刃に痺れを切らしたのか催促してきた。そして渡すと喉を鳴らして飲み始める。ちょ、お願いだからあたしの頭に零さないでね!
『ん?どうしたの蒼刃、やっぱり飲みたかった?』
〈…い、いえ…大丈夫です…〉
小さな手で器用に飲む雷士の傍らで何やら蒼刃は落ち込んでしまっていた。雷士は気にするなと言ったけれど一体どうしたのだろう?
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