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『よし、これで準備OK!』
ここはイッシュ地方ヒオウギシティにある小さな研究所兼一軒家。
その中にある自室であたしは旅立ちの準備をしていた。
10歳を過ぎる頃に旅立つ人が多いこの世界において、16歳という年齢でやっとなんていうのは間違いなく遅い方に分類されるだろう。でも今更そんなこと気にしていたって仕方がない。
それに旅立ちと言っても然程大袈裟なものでもない。何故なら研究を手伝う為のフィールドワークが主なのだから。
〈ふぁあ…準備出来た?ヒナタちゃん〉
『おはよう雷士、バッチリだよ!』
今あたしの頭上で気怠げに声を発したピカチュウの名は雷士。あたしが小さな頃からの相棒です。
声と言えば…何故かあたしは原型のポケモンの言葉が分かるという不思議な能力を持っている。
いつからとか、どうしてだとかはあまり考えたことは無い。生活する中で当たり前の様に聞こえていたから。
けれどこうして雷士を始め色々なポケモン達と会話が出来るというのは非常に喜ばしい。お互いの言葉が通じるって素敵だと思うしね。ただ、鳴き声っていうのは聞いたことがないから少しだけ残念だけど…。
『見て雷士!良い天気だよ!』
〈そうだね…でも眩しいよ…〉
水色のカーテンが靡く窓を勢いよく開ければ眩い日差しが差し込んでくる。
未だ眠たげな目を擦り、ノリの悪いことを言う電気ネズミくんはもっと日光を浴びるべきだと思う。
雷士の脇に両手を差し込み太陽光線を浴びせてみたらジグザグの尻尾で額を思い切り叩かれた。…酷いよ相棒。
そんなやり取りをしている内にもう10時。お昼前には出ていくつもりだったので慌てて四次元カバンをひっつかみ階段を駆け降りた。
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