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ツッコミで泣き止むとか我ながら悲しいけれど、冷静になった頭で考えた。
こんな街中で喧嘩なんかしたら大騒ぎになってしまう。お互いの為にもここは退くべきだよね。
『もういいよ2人共、アイスはまた買えば良いんだし、行こう?』
「いいえヒナタ様、この男見過ごすわけにはいきません。俺が成敗します!」
あれ、蒼刃の顔が本気だぞ。ていうか人の姿で殴り合いなんて本当に警察が来てしまうのでは!?
「…イイ度胸じゃねぇか、この俺に刃向かって来るヤツは久し振りだぜ。来な…相手してやる」
ゾッとする程の鋭利な笑み。口元からうっすら覗く鋭い犬歯が彼の獰猛さを物語っている様な気がした。
『で、でもこれって不味いんじゃ…。蒼刃は格闘タイプのポケモンだよ!?丸腰の人間に殴りかかったら大怪我させちゃうって!』
「いや…大丈夫だと思うよ。だってアイツ人間じゃないし」
『…へ?』
蒼刃とヤンキーお兄さんが同時に姿を変える。いや、変えるよりは戻すの方が正しかった。
〈はっ…テメェを丸焦げにしてやるよ!〉
だって彼は、れっきとしたガーディだったのだから。
『…雷士、ガーディ超可愛いんだけど抱き締めにいって良いかな』
「今行ったらもれなく殺されるけどどうする?」
『やっぱり止めとく』
〈ヒナタ様!ご指示は要りません、俺にお任せ下さい!〉
▼ソウハが かってに ポケモンバトルを はじめた !
えぇ…どうしようこれ…!
〈はぁっ!〉
〈甘ぇんだよバカが!〉
でんこうせっかとかえんぐるまが激しくぶつかり合う。けれどやはり威力としてはかえんぐるまが上、蒼刃の体が吹き飛ばされてしまった。
〈うぐっ!〉
『蒼刃!』
〈んだぁ?もう終わりかよヘナチョコ野郎!!〉
可愛い癖に口悪いねガーディ!でもそんな強気な彼はそれに見合う実力者らしい。随分レベルアップした筈の蒼刃が押されている。
けれど蒼刃はグッと握り拳をつくり、ゆっくりと…力強く立ち上がった。
〈まだだ…っ!俺は…ヒナタ様の前で無様な姿は2度と晒さないと、あの時誓ったんだ!〉
吼える様に叫んだその時、蒼刃の全身が眩い光に包まれた。嘘、まさかこれって…!
「…へぇ、進化なんて…やるね蒼刃」
『…っる、ルカリオ…!?』
リオルよりも逞しく、そしてしなやかな四肢。目つきはより凛々しくなり強靭な精神力を物語る。
〈はっ…これで俺も思いっ切りやれるか?〉
〈…来い、次で決めてやる!〉
ガーディが先程よりも火力十分なかえんぐるまで突進して来る。けれど蒼刃は動かない。
『蒼刃…!』
〈…甘いのは貴様だ〉
かえんぐるまが決まるその瞬間、炎を纏っているにも関わらず蒼刃が渾身のはっけいでガーディを弾き飛ばした。勢いで地面に倒れ込んだガーディは受け身を取る事も出来ず相当なダメージの筈。
『す、すごい…!』
〈…終わりましたヒナタ様。お時間を取らせて申し訳ありません〉
あたしの前で膝をつく蒼刃は何だかグッと大人びた気がする。ルカリオになった事で顔付きもより精悍になった。
〈…ぅ…っ〉
『!ガーディ…大丈夫かな。傷薬くらい使ってあげた方が良いよね』
〈ヒナタ様!?…あんな男の心配も、されるのか…〉
「仕方ないよ、あれがヒナタちゃんだからね」
蒼刃の事だから大怪我はさせていないだろうけれど、念の為ガーディに駆け寄り傷を確認しようとした。だけど、
〈触んな!!〉
『い"っ…!!』
手を伸ばした瞬間思い切り噛みつかれてしまった。万全の状態じゃないから貫通とかはしていないけれど、それでも十分激痛…!
「ヒナタちゃん!」
〈ヒナタ様!〉
『あは、大丈夫大丈夫…』
さすがに驚いている2人に心配はかけたくないからヘラリと笑ってごまかす。もう一度ガーディの方を向いたら何だか彼も驚いた顔をしていたけれど、すぐにあの悪い目つきになった。
〈ちっ…運の良いヤツらだ。次会ったら覚えてやがれ…!〉
そう言い残しふらふらと去っていく。歩けるのならまだ大丈夫…かな?
『…ていうか…捨て台詞が一昔前の悪役みたい…』
「ヒナタちゃん、多分今シリアスパートだから」
…次会ったら、か。その時に傷が癒えてなかったら…また噛みつかれたとしても手当てをしよう。
彼の去っていく後ろ姿を見て何故だかそう思った。
to be continue…
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