long | ナノ







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「うっ…!」

『え!?』


まるで発作が起きたかの様に胸を押さえ、苦しげに座り込んでしまった蒼刃。行列の人達が何事かとざわめき出した。


(え、どういう事!?全然理解出来ないんだけどあたしがおかしいの!?)


軽くパニック状態に陥っていると、行列の中から女の子達が大勢駆け寄って来た。心配そう…だけれど、頬を染めどこか蕩けたような表情をしている。


「だ、大丈夫ですか?座って休んだ方が…!」

「いえ…心配は無用です。少し動悸がしただけですから…」

「「「キャアァアアァア!!」」」

「すいませーん、ヒウンアイス1つ」

「あ、はい…」


…あぁ、なるほど、そういう作戦なのね。アイスという商品柄、お客は女性が多い。そこへ病弱な美形少年(という設定であろう)蒼刃が何とも艶めかしい悩ましげな表情をする事で女性客の気をひき、列が無くなった隙に雷士がアイスを買うと。


「ヒナタ様!如何でしたか俺の戦略は!?」

『う、うん…。言いたい事は色々あるけど、とりあえずあんなのどこで覚えたの』

「ポケモンセンターで見たテレビです!道端に座り込んだ虚弱体質の男を見た女性達がこぞって手を差し伸べていたのを思い出したので使えるかと!」


テレビの影響かそう来たか!何となく蒼刃みたいな硬派な男の子がやると複雑な気分になるよ…。女性陣は未だに夢の世界から戻って来れていないようだし。


『蒼刃…アイスは嬉しいけどあなたの品位が落ちるから、ああいう事はあんまりやってほしくない…かな』

「…そう、ですか…」

「あれ、どこ行くの蒼刃」

「少し己の罪を償ってくる。ヒナタ様があまり喜んで下さらなかった…。もう俺は一度死んでタマゴからやり直すしかない」

『待ってぇえええ!!早まらないで!蒼刃ありがとうあたしすっごく嬉しいよ感激!!ほらほら一緒に食べよう!?』

「…!はい、ヒナタ様!」

「え、何コイツ超怖いんだけど」


蒼刃の隠された一面を見た様な気がするけれど、全力で何も見なかった事にしました。





「…イイもん食ってんじゃねぇかガキ」

『え?』  


蒼刃を宥めてアイスを一口ふくんだ時、不意に耳元で低い男の人の声が聞こえた。あたしが振り向くよりも先にその人の手が真っ直ぐ伸びて来る。

そしてそのまま奪われ、かぶりつかれてしまった。

…ヒウンアイスに。



『…あ、あぁああぁああ!!??』

「んだようるせぇな」


あ、アイス!あたしのヒウンアイス!蒼刃がその身を削ってまで買ってきてくれたのに!いや買ったのは雷士だけど。とにかくすっごい楽しみにしてたのに…まだ一口も食べてないのに…!!


『ひっ…ひど、ひどい…っ!』


あれ、あたしここ目の前の真っ赤な髪をしたお兄さんにキレるとこじゃないの。何で号泣しているの。

自分でも思うけれどカッコ悪い…でも、アイスが惜しすぎて涙が止まらない。ほら雷士も蒼刃も白い目で見て…ってあれ?何か2人共…怒ってる?


「はっ、アイス如きで泣き喚くたぁ随分か弱い嬢ちゃんだなぁ?」

「貴様…!ヒナタ様への非礼を詫びろ!このお方を傷つけておいて只で済むと思うな…っ」

「そうだね…関わるの面倒くさいけどその態度は気に入らない。何よりヒナタちゃんを僕以外が泣かす事がムカつく」

『あれ、最後何か違くない?』


あ、思わずツッコんだら涙止まった。


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