3
「ホミカ―――!!カッコ良い――っ!!」
(うわ…凄い、ホミカちゃんの見ている景色はこんな風なんだ…!)
ライトアップされたステージで熱く歌い上げるホミカちゃんは本当にカッコ良い。お客さんもそんな彼女を見て大いに盛り上がっている。
(あたしより年下なのに…ジムリーダーもこなしてバンドもこなして、凄い人はたくさんいるんだ)
今までハル兄ちゃんに甘えて生きてきた自分が何だか恥ずかしい。せめて今はホミカちゃんの期待に応えられる様に精一杯の事をしないと!
少しでもそれらしく見えるよう体を揺らしながら楽器を弾くフリをする。けれどアクシデントは全く予想だにしなかった所から現れた。
「…ねぇ、あの女の子誰?今日来るのってカナとリクの二人だよね?」
「そうそう、カナはともかくリクは絶対見たかったのに!何でいないのよ!?」
最前列でライブを見ていた彼女達の会話が嫌に響いた。ホミカちゃんも歌に支障は来していないけれどどことなく気まずい表情をしている。
カナとリクとは言わずもがな今日ホミカちゃんとステージに立つ筈だった男女2人組のミュージシャン。特に美形のリクの方には熱狂的な女性ファンが多いらしい。
彼女達が怒るのも無理はない。滅多に会えない憧れの人達に会える最高の日であった筈なのに。
…やっぱり、あたしじゃダメなんだ。
「そんな女よりリクを出してー!ホミカと同じくらい会うの楽しみにしてたんだから!!」
そうだ、あたしみたいな素人が首を突っ込んで良い問題じゃ無かった。今更ながら後悔してももう遅い。ホミカちゃんが意識を逸らそうと客席まで寄って歌ってくれているけれど彼女達は頭に血が登ってそれどころじゃないらしい。
楽器を持つ手が震える。情けない…約束、したのに。出来る事は頑張るって。
早く持ち直さないと曲が終わってしまう。必死に笑顔を浮かべようとした時、汗で指が滑りギターが手を離れた。
あぁ、もうダメだ。あたしがライブをメチャクチャにしてしまった。
…そう、思ったのに。
「全く…だから足引っ張っちゃダメって言ったでしょ、ヒナタちゃん」
『…!?』
その少年の登場に女性達が皆顔を赤らめ息を呑んだ。ギターは床に落ちる事無く少年の腕に支えられている。
『雷士…!』
「らしくないねヒナタちゃん。ほら、まだ曲は続いてる。笑ってよ」
ニコ、と微笑を浮かべる金髪に黒毛が混じった美少年は間違いなく雷士だ。手にはあたしと同じ様にギターが握られている。滅多に人の姿を取らない彼がどうしてここに、そう思ったけれど今はそれどころじゃないね。
あぁもう、こんな登場カッコ良すぎるって!
「ちょっあの男の子誰!?超美少年!」
「衣装も凄い似合ってるー!ヤバいね!」
冷めていた会場がとたんに熱を取り戻す。再び歓声に包まれていった。
(…イイ男がついてんじゃんヒナタ!)
一瞬こちらを見てニヤリと笑ったホミカちゃんにあたしもニッと笑い返す。そこからは大盛り上がり!ライブは大成功で終わったのだった。
−−−−−−−−−−
『うぅうう…っ!ほんっとにゴメンなさいホミカちゃん!!』
「もー…良いって言ってんじゃん!頼むから土下座はやめろ土下座は!」
ライブ終了後の舞台裏で土下座を決め込むあたし。これくらいしないと申し訳無さすぎて死にたくなる。
「結果は大成功だったんだしさ!アタシに謝るよりそのイロオトコを労ってやったら?」
「色男って…僕には似合わな『雷士ぉおおお大好きぃいいい!!』うわっ、」
ライブ用の派手な衣装を脱ぎくつろいでいた雷士に思い切り抱き付く。バランスを崩しかけたけれど何とか支えてくれて椅子から転げ落ちるのは免れた。
『まさか…まさか超絶面倒くさがりな雷士が衣装に着替えてメイクまでして助けに来てくれるなんて!!ドライ過ぎてある意味血も涙も無いと思ってたのにあたし感激だよ!!』
「ちょっとヒナタちゃんバカにしなかった今。アイアンテール喰らわせてモンスターボール大のたんこぶ作ってあげようか」
『ゴメンなさい』
「あはは!やっぱアンタ…いや、アンタ達最高だよ!またいつか一緒にライブやろうね!」
『え、ちょっとそれは…勘弁して下さいって言うか…』
…何はともあれ上手くいって良かった。これも全部雷士のおかげだよ!震えているあたしを見かねて自分から来てくれるなんて思って無かったし。
そう言ったら何故か顔を赤くしてそっぽ向いてしまった。もしかして照れているのかな?
『あは、ありがとう雷士』
「…どういたしまして。君をあのままにはしておけなかったしね」
今日は予想外の事ばかりの日だったけれど、久し振りに雷士の擬人化も見れてラッキーでした。
ちなみにセンターに帰ってから目を覚ました蒼刃にライブの事を話したら凄くショックを受けていた。…何で?
(ヒナタ様の一段とお可愛らしい姿を…見損ねた…!)
(僕がリードだね、蒼刃?)
to be continue…
prev | next
top
|