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拝啓、ハル兄ちゃん。あたしは今日ミュージシャンデビューする事になりました。
『ってちょっと待って!!どういう事!?あたし楽器なんか弾いた事無いし絶対無理だって!』
「だーいじょーぶだよ!生じゃなくてエアー演奏して音源裏で流せば良いだけだし」
『プロが言って良いセリフじゃないよねそれ!?』
ケラケラとあっけらかんに笑うホミカちゃんにあたしはパニック。…でも楽器を弾かなくて良いなら何とかなるのかな。歌はホミカちゃんが歌うんだし…。
『…というか、何であたしなの?』
「ん?あぁ、アンタにビビッと来たからだよ。アタシのライブには地味とかフツーとか似合わない…勿論それを否定するワケじゃないけどさ。けどアンタのその派手なオレンジ色の髪…そして化粧映えしそうな出来の良い顔!もうある意味運命だと思ったの!!」
…あぁ、ホミカちゃんが派手好きだからお客さんも派手だったんだ。ていうかあたしの髪って派手なの?気に入ってはいたけれどまさかこんな所で役立つとは。
「というワケだからお願い付き合って!楽しみにしてる客ばっかりだから中止とか出来ないんだよ!」
確かに彼女の言う通りだ。道中の女の子達を見たら一目瞭然、皆今日を楽しみにしていたんだろう。そんな気持ちを踏みにじる訳にはいかない。
『…楽器を弾いているフリをしていれば何とかなる?』
「!うん、立つのはアタシの後ろだし衣装もメイクも全部用意するから!」
『…分かった、やれる事はやってみるよ。あたしもライブ楽しみにしてたからね!』
「サンキュー!あ、そうだアンタの名前は?」
聞くの遅れた!と笑う彼女にちょっと苦笑い。けれどこういうさっぱりした強引さは嫌いじゃない。
『あたしはヒナタ、よろしくねホミカちゃん!』
「よろしく!それじゃヒナタ、ライブまでまだ時間は残ってる。早速アンタの準備に取り掛かるよ!」
『イエッサー!お願いします!』
(…大丈夫かな、ヒナタちゃん)
−−−−−−−−−
それからのホミカちゃんは凄かった。メイクさんやスタイリストさんにテキパキと指示を出し、あたしをあっという間に大変身させてしまったのだ。
『…ど、どう?変かな雷士』
〈良く似合ってるよ。でも僕は普段のノーメイクのヒナタちゃんが良いな、何も気を遣わなくて良いから〉
『ちょ、素直に喜んで良いのこれ』
「ヒナタ―-っ!!アンタ最高!チョー可愛い!やっぱアタシの目に狂いは無かった!」
ギューッと抱き付いてくるホミカちゃんの方が可愛いよ!それにこれは上手く化かしてくれただけ。
あたしが今着ているのは黒と白を基調としたフリル付きのゴスロリワンピ。編み上げブーツに紫色の花があしらわれた豪華なハットを被っている。ついでにメイクも派手。チークも濃くて本当に自分じゃないみたい。
「よっしゃ準備は整った!さぁ行くよヒナタ!」
『う、うん!じゃあ頑張るね雷士!そしてボールの中の蒼刃!』
〈足引っ張っちゃダメだよヒナタちゃん〉
ちょ、雷士は応援する気あるの?今は眠っているらしい蒼刃ならきっと全力で応援してくれるだろう。彼はそういう子だ!
ともかく後数秒でライブが幕を開ける。段々緊急してきたけれどもう後には退けない。
あたしは歓声が上がるステージへと駆け上がった。
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