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〈キュレム!アンタに頼みがあるんだ!〉
『ケルディオくん?』
〈オレ、多分まだキュレムには勝てない…でも絶対もっと強くなって、もう一度アンタに勝負を挑むから!その時また戦ってくれないか!?〉
〈…良いだろう。貴様の真の力を我に見せてみよ〉
そうか、元々ケルディオくんは自分の力を試す為にキュレムさんに挑んだんだよね。本人の言う通り今はまだその時じゃないのだとしても、ケルディオくんならいつか必ず認めてもらえる気がする。
…うん、決めた。
『ケルディオくん、少し前に約束したこと覚えてる?』
〈ん?あぁ、勿論だぞ!もしかして決まったのか!?〉
『うん!』
「約束?」
『プラズマ団からキュレムさんを助け出せたら名前を付けてほしいって、ケルディオくんにお願いされたんです。あたしでいいのかなってずっと不安だったんですけど…。でもこれならどうかなって思えた名前があって』
〈どんなのだ!?教えてほしいぞ!〉
興奮したようにぴょんぴょん跳ねるケルディオくんが可愛くてつい笑ってしまった。そっと屈んで、原型だと少しだけあたしより背の低い彼と目線を合わせる。
『清芽、とかどうかな?』
ケルディオくんはとても真っ直ぐで、キュレムさんを助けたいと願う気持ちにも迷いはなかった。そしてコバルオン達が認めたように無限の可能性を秘めている。あなたのその清らかな心から生まれた希望の芽が、どうかこれからも力強く成長し続けますように。
〈せいが、か…!うん!気に入ったぞ!ありがとうヒナタ!〉
満面の笑みでありがとうと言われてあたしも嬉しくなる。良かった、喜んでくれたみたい。一生懸命考えた甲斐があったなぁ。
〈やれやれ、本当にヒナタに懐いてんだなぁケルディオは〉
〈それも自然なことだと言えますわ。何故ならヒナタさんはこんなにも愛らしいんですもの!〉
『わっ!?』
突然ビリジオンがあたしに頬ずりをしてきたから驚いてしまった。わぁ、でも近くで見ると益々美人さんだ!
〈あぁ、何て可愛らしいのでしょう!ねぇヒナタさん、わたくしのことお姉様と呼んで頂けませんこと?〉
〈おいコイツやべぇぞとんでもねぇ暴走してるぞ〉
〈雷士達がこの光景を見ていないことを祈るしかない…〉
『え?えぇと…お姉様?』
〈あぁああ…っ!素晴らしいですわ…!もう一度お願いしてもよろしくて!?〉
「トウヤ、ヒナタにお姉様と呼ばれるとそんなに嬉しいものなのかい?」
「ちょっと待って本気で意味が分からないんだけど」
あたしもよく分からないです、トウヤさん。まぁ美人さんにくっ付かれるのは全然悪い気はしないのだけど。レシラムさんとゼクロムさんまで何故か苦笑いというか微妙な反応をしていて、キュレムさんに至っては本当の意味で虚無の表情という感じだった。ビリジオンもといお姉様は個性的な性格なのかな?
「えーと…それじゃそろそろここから出ようか」
「そうだね、早く皆をポケモンセンターに連れて行ってあげないと」
〈ヒナタさんはお疲れでしょうからどうぞわたくしの背に!遠慮なさらなくて結構ですわよ!〉
『え、でもそんな…!』
〈乗ってやれヒナタ、そのほうが色々と丸く収まるぜ〉
『テラキオンまで…。じゃ、じゃあお願いしますね』
「この場に忠犬小僧がいたら大暴れだろうな」
何となく怖いからそんなこと言わないでくださいレシラムさん! 清芽くんに手助けしてもらいながらビリジオンに跨ってみる。うわぁ、聖剣士の背中に乗せてもらっちゃったよあたし…!ビリジオンも格闘タイプだからかな、スマートだけどしっかり締まった体付きで何だか羨ましい。
『それじゃキュレムさん、あたし達行きますね』
〈うむ…世話をかけたな〉
『とんでもないです!あなたの力になれたならそれが一番ですから』
〈…また会おうぞ、ヒナタよ〉
『はい!』
不思議とキュレムさんの感情の変化が分かるようになってきた気がする。表情や声色が柔らかくなったような、そんな感じだ。そして全員で出発しようとしたとき、擬人化したゼクロムさんが不意にキュレムさんの方を振り返った。
「キュレムよ、永い時の中孤独を強いてすまなかった。だが儂らはお前の存在を疎ましいと思ったことは一度としてない。それだけは覚えておいてくれ」
〈…斯様な無駄話はよい。早く行け、同胞よ〉
同胞、その言葉に僅かにゼクロムさんが目を見開いたのが分かった。そしてレシラムさんと共に少しだけ微笑みを浮かべる。あぁ、良かった。彼らは恐らくもう二度と1体のポケモンに戻ることはないだろう。それでも心はいつも繋がっている。
あたし達はキュレムさんに一時の別れを告げ、長い戦いを終えた体を癒す為にジャイアントホールを後にしたのだった。
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