long | ナノ







3

『それは…もしかして、あたしの母親のことですか?』


あたしの一言に場が凍り付いた。それも無理はないだろう。ゲーチスさんとあたしのお母さんが知り合いかもしれないだなんて誰も想像出来ないと思うし、あたしですらつい先ほど知ったばかりなのだから。


「ご明察。…アナタは何もご存知ないようですから教えて差し上げましょう」


ゲーチスさんはこの瞬間をずっと待っていた、そんな風に思ってしまうほどに可笑しそうな声で言った。


「ヒナタさん、アナタの母親はかつてワタクシが拾い育てたのですよ。いずれプラズマ団の王となる器として、ね」




…頭が真っ白になるとはこのことを言うのだと思った。情報が上手く処理できず頭がキャパオーバーしてしまいそう。それはあたしにとって最も最悪な答えだったかもしれない。ただゲーチスさんが一方的にお母さんを知っていたのならともかく…まさか、まさか、


『お母さんが…プラズマ団…?』


それもまさかNさんと同じように、ゲーチスさんの手で育てられた王候補、だなんて。


「…っデタラメはやめてください!ボクはそんな話など一度も聞いたことがない!」

「アナタに話す必要は無かったというだけのことですよ。しかしワタクシも驚きました。最初にヒナタさんの姿をお見かけしたときは半信半疑でしたからねぇ…。まさかあの写真に写っていた子どもがアナタだったとは!」


最後のセリフにぴくっと体が反応する。…写真?写真とは…何のことだろう。俯きかけていたあたしの顔がゆっくり持ち上がるのを囃すようにゲーチスさんは続けた。


「全くアキナも不運なものです…。娘を残してあのような最期を遂げてしまうのはさぞ無念だったでしょうねぇ」

『…あなたは…!あなたは一体どこまで知ってるんですか!?』


もう耐えられなかった。あたしの知らないお母さんの話をさも面白そうに勿体ぶるこの人の発言が。あのような最期って何?どうしてあなたはお母さんの死に様まで…!!


「ゲーチス様、時間です。緊急用脱出プログラムを起動致します」

「えぇ、分かりました」

『!待って!!』


アクロマさんが立っている箇所の横の地面が丸く光っている。彼は脱出プログラムと言った。恐らくキュレムさんがアジトからジャイアントホールに飛ばされたのと同じようなものなのだろう。今みたいにもしもの時のことを想定して用意していたのだとしたら本当に彼らは抜け目がない。


「ヒナタさん、アナタは母親のことを詳しく知らないのでしょう。彼女が何故ワタクシの元へ来たのか、どのような人生を歩んだのか。…その全てを知りたければカントー地方へおいでなさい。アナタにその覚悟があるのなら、ですが」


そう言い残してゲーチスさんとアクロマさん、そしてダークトリニティ達はあっという間に光の中に消えてしまった。宙に伸ばされたあたしの腕が空しく揺れる。

あれは多分ハッタリではない。ゲーチスさんは本当にお母さんのことを知っている。娘のあたしですら詳細を知らないお母さんのことを。否定したいのに出来ない悔しさと不安で胸がぐちゃぐちゃになってしまいそう。


(…カントー地方…)


あたしの生まれ育った故郷。両親を失い、そして新たな家族と出会った場所。そこには一体何があると言うのだろう?

ぐっと拳を握って黙り込んでしまったあたしの肩に、優しく誰かの手が乗せられた。



to be continue…



prev | next

top

×