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瞬間、耳元で聞こえたその声が誰のものか分からなかった。それは重低音で鋭さはそのままに、しかしとても穏やかな声で、初めて出会ったときの彼とは似ても似つかなかったから。キュレムさんは突然首をもたげたかと思うと素早くれいとうビームを繰り出し、頭上に迫っていたエレキネットを一瞬で凍てつかせた。そして纏った電気ごと芯まで凍ってしまった糸は冷気に耐え切れず粉々に砕け散って消えていく。


〈…我は…我はずっと、待ち続けていたのやもしれぬな…〉

『キュレムさん…?』


独り言のように小さな声で呟いたキュレムさんが、確かな光をその瞳に宿してあたしを見据えた。


〈小さき英雄よ…貴様を我が主と認めよう。さぁ使え、存分に揮うがよい。この力の全て、これより先は貴様の物ぞ!〉


あまり表情は分からなかったけれど、僅かに笑みを浮かべていた気がする。そしてキュレムさんはあたしを翼の背で守るように前に出て、ゲーチスさん達に向かって身が縮むような咆哮を浴びせた。


「キュレムが…ヒナタを英雄と認めた…!」

「あぁっ何と素晴らしい!まさかあの虚無までも手懐けてしまうとは!!」

〈…ふん、ようやく殻を破ったか…〉

「レシラム!大丈夫なのかい?」

〈案ずるな、多少疲弊はしているが大事ない。それ以上に不覚を取ったこの鬱憤を奴らで晴らしてやりたいくらいだ〉


良かった、レシラムさんも目が覚めたみたい。それに意識もハッキリしているし体力も残っているようだ。…すごく不機嫌っていうのも伝わってくるけれど。


「お前達にとっては万事休す、ってところかな?キュレムはヒナタに従うと決めたみたいだし、勝ち目なんてもう残っていないと思うよ」

「ダークトリニティはトウヤが下した。コバルオン達も皆回復した。アナタの負けだゲーチス…いや、敢えてこう呼びます。父さん!もう終わりにしましょう」


Nさんが父さん、と口にした瞬間、それまで黙り込んでいたゲーチスさんの体がぴくりと動いた。そして微かに唇を震わせ、不気味に口角を吊り上げていく。


「くっ、くくくくく…!父さん、父さんですか…。かつてアナタの他にもう1人、そのようにワタクシを呼んでいた者がいましたねぇ…」

「…?それはどういう…」


そのゲーチスさんの言葉にあたしは何かとてつもなく嫌な予感がした。どうしてなのかは分からないけれど、でもその答えを予想出来てしまっていたのだ。



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