long | ナノ







3

「いきなさい、キュレム!」

「レシラム!」


ゲーチスさんの指示でキュレムさんがれいとうビームを繰り出す。それをレシラムさんがかえんほうしゃで防ごうとした、その時だった。


「なっ…!?」


れいとうビームは突如レシラムさんとゼクロムさんの頭上を飛び越え、背後にいた雷士やトウヤさん達の足元を一瞬で凍りつくした。不意を突かれて誰も身動きが取れなくなってしまっている。そんな、最初からこれが狙いだったの!?


〈これは…不味いですね。僕達はともかく、人間の体ではこの冷気に長時間耐えられない〉

〈紅矢!お前の炎でどうにかならないのか!?〉

〈うるせぇもうやってる!だが…ちっ、伝説の名は伊達じゃねぇか…!〉

「無駄ですよ、キュレムの氷はそう簡単に溶かせません。それこそ同じ伝説のポケモンクラスでないと、ね」


アクロマさんがほくそ笑む。それはトウヤさんも分かっているようで、忌々しそうに舌打ちをした。


〈レシラム、そなたは氷を何とかしてやれ。キュレムの相手は儂がしよう〉

〈…ふん、せいぜいやられるなよ〉


渋々といった風にレシラムさんが背を向けたその瞬間、突然キュレムさんがふぶきを繰り出した。でも何かおかしい。レシラムさんとゼクロムさんに直接攻撃したというよりは、彼らの周囲一帯に向けてという感じだ。それに確かに強烈だけど耐えられないほどではない。それよりも雪風のせいで視界が狭まり見えにくくなっていることのほうが厄介だった。


〈これ、ふぶきじゃない。こごえるかぜだね〉

「でもどうして威力の低い技を…」

「…!しまった、目くらましだ!気をつけろレシラム!」

〈な…っ!?〉


トウヤさんが声を張り上げたのとほぼ同時、キュレムさんがレシラムさんに飛びかかるのが見えた。そうか、これは彼らに隙を作らせる為の罠だったんだ!

キュレムさんはレシラムさんに食らいつき、鋭い爪をその体にめり込ませてガッチリ掴んでいる。そうされてはレシラムさんといえど思うように動けないでいるようだ。


〈くっ…!やれゼクロム!私に当たっても構わん!〉

〈致し方なしか…っ〉

「おっと、余計な真似はしないほうが彼女の為ですよ?」

『ぁっ…!』

〈ヒナタ様!!〉


あたしの口を塞いでいたダークトリニティの手が離れたかと思ったら、今度はどこから取り出したのか分からないけれど小さなナイフのような刃物を突き付けられた。恐らくこの人達は命令さえあればその刃を動かすことを躊躇わないだろう。だって少しも感情を感じさせないもの。

あたしのその姿に躊躇してしまったのか、レシラムさんとゼクロムさんの動きがピタリと止まった。ダメです、あたしのことは気にしないで。そう言いたいのに恐怖で上手く声が出せない。すると見計らったようにアクロマさんが再び何かの装置を操作した。


「今です!キュレム、レシラムを取り込みなさい!」

〈!?〉

「レシラム!」


キュレムさんが発していた謎の光が生き物のように動いてレシラムさんごと覆い尽くしていく。その最中にキュレムさんの歪な体の隙間から何かが見えた。あれは一体何…?氷柱みたいな形をしているけれど…。光もその物体から出ているようだ。


〈ぐ…っキュレムよ、貴様の矜恃はその空ろの中で消え失せたか…!〉

〈おのれ!〉

「無駄です!もう止められませんよ!」


ゲーチスさんが言った通り、ゼクロムさんが攻撃してもその光は止まらない。眩い光の中でキュレムさんとレシラムさんがどんどん1つになっていくのが分かる。ゲーチスさんは取り込むと言った。そうか、この融合こそが彼らの狙い。あたしが感じていた疑問の答えはこれだったんだ。


(そしてあたしは、計画をスムーズに行う為に使われた!)


トウヤさん達の弱点になり得ると判断されて、計画への抑止力として。こんなに無様で悔しいことはないかもしれない。何とかしなければ、この身がどうなろうとも。

でもそう強く決意した時には既に遅く、光が消えて現れたのはあたしが知るのとは全く違うキュレムさんの姿だった。



to be continue…



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