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「ゲーチス様、彼らが来たようです」
「おや、そうですか。喜びなさいヒナタさん、アナタのナイト達が到着しましたよ」
〈ヒナタちゃん!!〉
ゲーチスさんに促されて視線を向けたと同時に聞こえてきたのは雷士の声。あの雷士がそんな大声を出すなんて、本当に心配させてしまったんだなと不謹慎かもしれないけれど思ってしまう。雷士だけじゃない、他のみんなも心から安堵したような表情を見せるから、それまで張りつめていた緊張の糸が切れたかのようにあたしの声も震えてしまった。
『みんな…!』
「ンン?ケルディオ達の姿が見えませんね…」
「それについてですが、あの場に残り足止めを買って出たのだと先ほど連絡が入りました。更に驚くべきはコバルオンを始め伝説の3体も突如合流し、ケルディオと共に団員達を一掃するため戦ったようですね」
(えっ、コバルオン達も来てるの!?何で!?)
「何と…!どういう意図かは分かりかねますが…ヒナタさん!やはりアナタは特別な存在であることに間違いないようですね!」
『きゃっ!?』
〈ヒナタ様!!〉
突然ゲーチスさんに腕を掴まれ立ち上がらされる。後ろ手に縛られているしバランスが悪くてよろけてしまったけれどそこはアクロマさんが支えてくれた。こんな状況じゃなければ素直にお礼も言えただろうに。
「一体何のつもり?さっさとヒナタを返してくれるかな」
トウヤさんが射殺せそうなほどに鋭く暗く睨み付ける。しかしゲーチスさんには通用していないようだ。
「それは出来ぬ相談です!…ですが、レシラムとゼクロムをこちらに差し出すというのであれば解放しましょう」
「やはりそれが狙いか」
「ふん、何を言うかと思えば。私達が承知するとでも思ったか?」
「ならば交渉決裂です。そしてヒナタさんの安全は保障出来ないというだけのこと…。目的は力尽くで果たさせて頂きましょう」
「待つんだゲーチス!キミは一体レシラム達をどうするつもりなんだ!?」
声を荒げたNさんにチラリと視線を寄越す。ゲーチスさんのその表情は嘲笑うかのように不快で不気味に思えた。
「どうする、ですか…N、それはアナタならば考えずとも分かるでしょう?ワタクシはレシラム達の真の力を引き出しあるべき姿に戻す!その力を使い手始めにイッシュ、ひいては全世界のポケモン達を他の人間から解放し、このワタクシが正しき指導者となるのですよ!」
「…キミは…っまだそんなことを企んでいるのか…!」
「企むなど人聞きの悪い。これはワタクシの夢なのですから!…そうですねぇ、いずれはヒナタさんを次の王にするのも良いかもしれません。N、アナタは失敗作でしたからねぇ!」
「っ!!」
『―――っNさんに何てこと…!んぅっ!?』
「黙れ、動くな」
「ヒナタ!」
〈アイツらはあの時の…!クソっ!!〉
〈待ちなさい紅矢!ヒナタ君があちらにいる以上は不用意に動くべきではありません〉
再びどこからともなく現れた黒ずくめのプラズマ団員。あたしを一瞬で拘束して連れ去ったダークトリニティと呼ばれていた人だ。今もまた抵抗する間もなく口を塞がれてしまった。悔しい、悔しい!ゲーチスさんは幼い頃からNさんを洗脳して利用して、その上まだ傷つけるなんて!それにあたしが捕まっているせいでみんなが思うように動けないのももどかしい。
どうしようもない憤りで体が震える。あたしを次の王にというのも冗談じゃない。しかしあたしは同時にある違和感を感じていた。
(ゲーチスさんが言った、「レシラム達の真の力を引き出しあるべき姿に戻す」とはどういう意味だろう。まるで今は本当の姿ではないと言っているみたい)
そういえばジャイアントホールに到着する前にゼクロムさんが、キュレムさんとは元々1体のポケモンだったと言っていた。まさかそれと関係が?
「くだらない…要はお前だけが自由にポケモンを使えて得をする世界を創りたいということだろ。相変わらず高慢でエゴの塊だね。そんなことは絶対に許さない、今度こそお前達を潰してあげるよ」
「アナタも相変わらず生意気な英雄気取りですか。くっ、はははは!2年前と同様にはいきませんよ!」
ゲーチスさんが手を振り上げて、それを合図としたのかアクロマさんが何かの機械を操作したのが見えた。するとそれまでじっと横たわっていたキュレムさんがゆっくりと起き上がっていく。目が覚めた…?ううん、何かがおかしい。何故ならキュレムさんの体から妙な光が発せられているからだ。あれは一体何?
「トウヤ…」
「あぁ、分かってる」
戦闘が始まるのを予感してトウヤさん達がレシラムさんとゼクロムさんを原型に戻した。それもそうだろう、キュレムさんの相手を出来るとしたら彼らしかいないのだから。でもこの胸騒ぎは何だろう。キュレムさんから出ているあの光が気になって仕方がない。
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