long | ナノ







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〈うふふ、これではわたくし達の仕事が無くなってしまいますわね。…けれど…かなりの時間をケルディオは休まず戦っていますわ。もうじき体力が尽きてこの猛攻も…〉

〈いや、それは多分大丈夫だ〉

〈え?〉

〈よく見ろよ、ケルディオにはまだ余裕があるぜ〉


テラキオンの視線の先には未だ戦い続けるケルディオがいる。確かにその動きには変わらずキレがあり、攻撃力もそれほど落ちていないように見えた。反して敵ポケモン達は息を切らしているものが多く、団員の指示にもまともに反応出来ない有り様のようだ。


〈あらまぁ、いくら筋肉バカのテラキオンにも鍛えられたとはいえこんなにもスタミナがつくものですの?〉

〈おいコラ〉

〈ふっ…そう嫌な顔をするな。しかし、お前が教えていたのは確か強靭な肉体作りではなかったか?〉

〈まぁな。それこそ俺やコバルオンみたいに身一つで岩をも砕くみたいな風にしようと思ってたんだが…アイツはいつの間にか別の道を見つけていたらしいぜ〉


俺の教えから全く逸れてるってわけでもないがな、とテラキオンは笑う。そして彼に最初に修行をつけたのは自分だったと懐かしい過去を思い出した。










〈さぁて、まずは俺がお前の教育係だ。とりあえずそこで見てな〉


テラキオンが連れてきたのは広い岩場。ここなら修行に向いていると判断してのことだ。そしてケルディオを少し下がらせ、自分の前にそびえる大きな岩に向かって突進する。すると衝撃が加わった途端テラキオンの倍以上もある岩にみるみるヒビが入っていき、あっという間に粉々に砕け落ちてしまった。


〈すっ…すっげー!何か特別な技を使ったのか!?〉

〈いいや、ただ力込めて突っ込んだだけだ〉


ぴょんぴょん跳ねて興奮を露わにするケルディオに笑いかける。テラキオンがまず今の光景を見せたのには意味があった。


〈ケルディオ、戦う為には何が必要だと思う?〉

〈え?何って…技じゃないのか?〉

〈そりゃそうだが、その前にだ。自分の体が無くっちゃ何も出来ないだろ?〉

〈あ…確かにそうだな〉

〈あぁ、だからまずは体を鍛える。そうすりゃ今俺が見せたみたいに岩だって砕けるぜ!〉

〈本当か!?…あ、でも…俺はテラキオンほど体も大きくないし、あんな岩を砕けるほどパワーもつかないかもしれないぞ…〉

〈なーに弱気になってんだ、お前ならきっと出来るさ〉


俯いてしまったケルディオを前足で軽く小突き励ましの言葉をかける。するとケルディオの不安げに揺れていた瞳が少しだけ明るいものへと変わった。


〈いいかケルディオ、俺達には確かに技がある。ビリジオンなんかは特にそこを重点的に鍛えるだろうよ。だがもしも、もしもだ。その技が使えなくなったらどうする?戦いは何が起こるか分からない。敵が未知の手段を使って技を封じてくるかもしれない。だが技が出せなくても体が動けば戦えるんだ。極端な話かもしれないが、戦う為の資本である肉体が強ければ強いほど脅威になるんだぜ〉

〈そうなのか…!すごいな!〉

〈まぁ、もちろん自分に合った戦い方ってのがあるから一概には言えないがな。だが間違いなく鍛えておくに越したことはない。体作りはパワーだけじゃなくスタミナもつくから持久戦だって可能だ。それに…、〉

〈?〉

〈柔な攻撃じゃビクともしない屈強な体に圧倒的なパワー、単純にカッコいいじゃねぇか!〉


そう言ってニカッと笑ったテラキオンはまるで子どものようでもあったが、同時にとても心強いものに見えた。







(結局オレはテラキオンほどパワーは身に付けられなかった。体の大きさはあの頃から変わらないし、たいあたりだけじゃあんな大岩も砕けない。でも…!)


憧れだった。非常時はいつも前線に立ち、どんな相手にも果敢に立ち向かうあの後ろ姿が。いつだって自分の体を張って仲間を守るその強さが。


(だから体を鍛える修行も欠かさなかった…少しでもカッコいいテラキオンに近付きたかったから。テラキオンが望むような結果は出せなかったかもしれないけど、それでもオレは絶対に倒れない!)


縦横無尽に駆け回るケルディオに対して敵勢はどんどん数を減らしていく。プラズマ団員にいたっては諦めたようにこの場を捨てて逃げ出す者もいる始末だ。そうなればもう敵に秩序など存在せず、まともに相手を出来るものはあと数匹しか残っていなかった。


〈なるほど…ケルディオがものにしたのは驚異的なスタミナか。確かにバトルは想像以上に長引く可能性がある。戦う上では必要不可欠なものだ〉

〈そうですわね、体が動くうちは思考も働きますわ。そもそも強引な力押しで一撃粉砕だなんてテラキオンにしか出来ないのでしょうから、ケルディオには初めから持久戦の方を教えて差し上げれば良かったのではなくって?〉

〈うるせぇな、別に俺の指導も間違っちゃいなかっただろうが!〉


3匹の会話が聞こえていたであろうケルディオがつい口元を綻ばせる。バトルの最中であるのにそんな余裕があることに驚きもしたが、ここで油断することなど許されないと自分自身を戒めた。そうすることで周囲の状況が更に正確に見えてくる。恐らくこの研ぎ澄まされた感覚こそが、コバルオン達のような戦いをする為のスタート地点だと思うと嬉しくてたまらなかった。


〈いいぜ…!いけケルディオ!体が動けば戦える!!バトルも戦いも、最後の最後に立ってたヤツが勝ちなんだ!!〉

〈あぁ!!〉


心技体、その全てを最高の師らから受け継いだケルディオが渾身のインファイトを繰り出す。そしてそれを受けたドラピオンがゆっくりと地面に倒れ込んだ。まだまだ、と顔を上げたケルディオだったが、そこにはもう一匹として立っているものがいない。どうやら今倒したドラピオンが最後の一匹だったようだ。


「おい…嘘だろ…?あの数が、全滅…!?」

「くそっ…!こんなヤツらに勝てるわけがなかったんだ!!」


ポケモンをボールに戻すこともせず団員達がバタバタと忙しなく立ち去っていった。その姿を見送ったことで、ようやくこの場を制したのだと実感が湧いてくる。


〈や…やった…!みんな!オレ達が勝ったんだ!〉

〈半分以上はお前の活躍だぜ!〉

〈よくやったケルディオ、お前はいつの間にかこんなにも強くなっていたのだな〉

〈そうですわね…わたくし達が心配する必要など無かったということですわ〉


コバルオン達がケルディオを見て眩しそうに目を細める。やはり自分達は間違っていなかった。聖剣士の後継者足るものはケルディオしかいないのだと、今ここで断言出来るだろう。


〈そうだ、早くヒナタを助けに行かないと…!〉

〈はっ!そうですわ、こんなところで油を売っている暇はありませんことよ!〉

〈なぁ…本当にビリジオンもそのヒナタって人間のところに連れて行くのか…?コイツが一番危ない気がするんだが〉

〈仕方ないだろう、ここで帰れとも言えんしな。…しかし…〉


先陣を切って奥へと進み出すビリジオンに溜め息を漏らした。続いてその後ろを追うケルディオへと視線を移す。


(喜びを噛み締めるのもそこそこに、真っ先にヒナタの身を案じるか)


ケルディオを成長させたものの一端とはもしや…


(…いや、これ以上の詮索は全てが片付いてからにしよう)


ふ、と笑みを溢したコバルオンもまた、聖剣士としての使命を果たす為に奥地へと向かった。



to be continue…



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