long | ナノ







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「ちっ…!おい、まずはあの小さいのから片付けろ!伝説の3匹よりは弱い筈だ!」


コバルオンやテラキオンの相手をした者が次々倒れていく様を見て、作戦を変えたのか下っ端のリーダーと思しき団員が声を上げた。するとその指示を聞いたポケモン達が方向転換し一斉にケルディオを取り囲む。そして間髪入れずに四方からそれぞれ攻撃を繰り出した。


〈まずい、アレじゃ避けられねぇぞ!〉

〈心配無用ですわ〉

〈は!?ビリジオン、お前何言って…!〉


ケルディオを助ける為に飛び出そうとしたところを止められ、テラキオンはビリジオンに鋭い視線を向ける。しかし彼女の表情は何故か喜びに満ちていた。一瞬呆気に取られたテラキオンだったが、直後に自分の頬に降りかかった水飛沫に気付いたことでその感情の意味を知ることとなる。


「なっ…!飛んだだと!?」

〈…ほう、やるなケルディオ〉


思わずコバルオンの表情にも笑みが宿る。プラズマ団の言葉もあながち間違ってはいないだろう。何故ならケルディオは空中にいたのだ。攻撃が当たった様子は微塵も見られない。自分の蹄の先から水を噴射し、まるでフライボードのように水圧を利用しながら、悠々と宙に浮いていた。


〈そうか、アクアジェットの水圧で…!ははっ、凄いじゃねぇかケルディオ!〉

〈へへっ。でもまだだ!さぁ、行くぞ!〉


アクアジェットを使ったまま方向を自在に切り換え、周囲の敵の中に突っ込み弾き飛ばしていく。水の勢いとケルディオ自身のパワーが合わさった強力な突進に、敵も迂闊には近寄れず尻込みする姿が見てとれた。


(そう…それで良いのですわ。ケルディオ、腕を上げましたわね!)


縦横無尽に飛び回り、敵を蹴散らすケルディオを見てビリジオンの目に輝きが増す。彼は自分の教えをきちんと理解してくれていたのだと思うと歓喜に震えるというものだ。


〈ビリジオン、あの動きは間違いなくお前の教えだな〉

〈えぇ、わたくしが伝えたかったこと…それは、自身の能力を知り技を磨くこと。どちらも出来ていなければただの持ち腐れですわ。鍛錬を怠らず練磨することで初めて武器と言えますの。ケルディオはちゃんと理解してくれたようですわね)


ただ悪戯に力をつけるだけ、技を使うだけでは能が無い。それではいずれ、より強大な相手に手も足も出ず打ち負かされてしまうと考えたからだ。だからこそビリジオンは長所と技術を伸ばすことを教えた。ケルディオはそれを汲み取り、自分の頭で考えた戦法で見事に戦っている。


〈磨き上げることで応用も利かせられるというもの…アクアジェットを移動手段と攻撃の両方に利用するのが正にそれですわね。更に進む方向まで操れるとは見事な成長ですわ。うふふ、ただ真っ直ぐにぶつかってきて簡単に避けられてしまっていたあの頃とは大違い〉

〈鍛錬の賜物か、スピード自体もうんと速くなっているようだ〉

〈それにケルディオの体は俺達と違って小回りが利く。ありゃ簡単には捕まえられねぇぞ!〉


テラキオンの言う通り、ケルディオは相手の攻撃が当たりそうになっても高い機動力でかわし続けていた。


(これならいける…!全員倒せる!)

〈!〉


実際に戦法が通用したことで自信がついたのか、ケルディオの口元が笑みを描いた。しかしその表情を見たコバルオンが僅かに顔をしかめる。何故なら笑みの中にある感情が見え隠れしたからだ。


〈…コバルオン〉

〈あぁ…だが、ケルディオを信じて見守ろう〉


ビリジオンとテラキオンもそれに気付いたらしく、目配せをして静かに声をかけた。しかしコバルオンの意見に同意し、それ以上の言葉は出さない。ケルディオ本人が気付かなければ意味がないと判断し、そのまま見守ることにした。



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