long | ナノ







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「まずい!奴らに先を行かれた…!おい、アクロマ様には連絡したのか!?」

「そ、それが…アイツらの攻撃で手持ちの通信機をやられてしまって」

「何だと!?くそっ、ならば他の奴の通信機を使って…!」

〈うふふ、そう簡単にいくとお思いですの?〉

「!?うわぁあっ!!」


ビリジオンが目にも止まらぬ速さでマジカルリーフを繰り出し、団員の持つ通信機を的確に破壊していく。無駄な動きは一切ない、美しくも鋭い正確無比なそれは彼女というポケモンを映し出すようだった。


「ば、馬鹿な!通信機だけを狙うなんてそんなことが…!」

(…すごい、やっぱりビリジオンのスピードと技の鋭さは聖剣士の中でも1番だ)


磨き上げた技で襲いかかり反撃の暇さえも与えない。そればかりか戦いの最中であるというのに、ビリジオンの優雅な姿に見惚れる者さえ現れる有り様だった。

そしてひとしきり団員達の通信機を破壊し終わったビリジオンは、足元についた土埃を払い緩やかに口角を持ち上げ微笑んだ。


〈あなた方の仰るアクロマという方がどなたか存じませんけれど、敵方の上に立つ存在であるということは分かりましたわ。そんな方へ連絡を許し邪魔でもされたらレシラム様に叱られてしまいますものね〉

〈ふ…さすがはビリジオン。見事だった〉

〈それと、わたくし1秒でも速くあなた方を片付けてヒナタさんに会いに行きたいのですわ。つまり無駄な時間を使いたくありませんの。あぁ、待っていて下さいませヒナタさん!まだ見ぬ可憐な乙女…!〉

〈…〉

〈あーまぁ、これさえ無けりゃな…。というか絶対そっちの理由の方が上だろ〉


褒めたことを若干後悔しているような微妙な表情を浮かべているコバルオンに同意するように、テラキオンもまた苦笑いを溢した。しかし彼女の実力が本物であることは事実で、その姿に刺激されたケルディオの闘争心はどんどん高まっていく。


(オレだって、オレだって…!)
 
〈ケルディオ〉

〈!〉


前足に力を込めて飛び出そうとしていたケルディオの隣に、トンと軽やかな音を立てビリジオンが降り立つ。そして微かに微笑んだあと、諫めるようで優しい澄んだ声色で告げた。


〈わたくしの教えたこと、きちんと覚えていますわね?〉

〈…ビリジオンに、教わったこと…〉


ケルディオの脳裏に浮かんだのは美しい森の中にいる光景。それはかつてビリジオンに修行をつけてもらった場所だった。










〈はっ!〉

〈…っす、すごい!すごいぞビリジオン!〉


生い茂る木々を物ともせず風のように森を駆け巡り、一際太い大木をリーフブレードの一太刀で両断する。その様を間近で見ていたケルディオはすぐさまビリジオンの元へ駆け寄った。


〈ビリジオンはすごいな!どうやったらそんな風に動けるんだ?〉

〈うふふ、それは勿論鍛錬あるのみですわ〉

〈そっか…そうだよな。今のオレじゃビリジオンみたいなことは出来ないし、もっと修行するぞ!〉

〈あら、わたくしと同じことが出来るようになる必要はありませんわよ?〉

〈え?〉


予想外の返答だと言わんばかりに目を丸くしたケルディオを見て笑みを浮かべる。そして次に自身が切り倒した大木へ視線を移して続けた。


〈勿論あなたにはわたくし達の姿を見て学んでほしいですけれど…何も全く同じことをしろとは言いませんわ。この世界にタイプ相性という法則があるように、それぞれ得手不得手があって完璧なポケモンなど存在しませんもの。たまたまわたくしの得意なことがこれらであったというだけの話ですわ〉

〈得意なこと…〉

〈えぇ、あなたにも得意なことがあるでしょう?そして同時に苦手なことも存在するはず…。まずは自分をよく知ることから始めると良いかもしれませんわね。そして何が出来るのかを理解したら、次にすべきことはもう決まっていますわ〉

〈次?〉

〈わたくし達ポケモンが生まれ持っている最大の武器…それは技。けれどただ備えているだけでは何の意味もありませんの。最大限のパワーで、尚且つ自由自在に使いこなせてこそですわ。そう来れば、何をすれば良いか分かりますわね?〉





(ビリジオンは言っていた…自分と自分の技を知れって。つまり、ビリジオンの教えは…!)



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