long | ナノ







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〈ふ…気概があるのも変わらずのようだな。ならばお前達、この場は任せるぞ〉

〈あら、レシラム様には珍しくお急ぎのようですわね?〉

〈すまんな、悠長なことが言っていられる状況では無くなった。キュレムだけならばまだしも、ここにいる者達の主も人質に捕られたのだ〉

〈何?ゼクロム様、それはまさか…ヒナタのことですか〉


一度僕達と会ったことがあるとはいえ、さすがコバルオンは察しが良い。多分ヒナタちゃんがこの場にいないからピンと来たのだろう。それを確かめるように僕の方を見たから頷くと、彼もまたヒナタちゃんに思うところがあるのか微かに表情を曇らせた。


〈…なるほど、何故お前達がここにいて更にヒナタが攫われたのかは気になるが…確かに火急のようだ。承知しました。この場は我等が、〉

〈ちょっとお待ちになって!〉

〈?どうした、ビリジオン〉

〈コバルオン、あなた今…ヒナタ、と仰いまして?〉


たった今倒したばかりであろう敵を踏みつけたままビリジオンが問いかける。ん?でもコバルオン以外の2匹は面識が無いはずだけど…何でヒナタちゃんの名前に反応しているの?


〈…しまった〉

〈え?〉


次にコバルオンの口から聞こえた小さな声。それは冷静沈着な彼には全く似つかない言葉だった。


〈ふ…うふふふ…っここに、ここに例のヒナタさんがいらっしゃるのね…!まさかこんなところでお会いする機会があるなんて幸運ですわ!!〉


その綺麗な透き通る声を高らかに張り上げたビリジオン。頬は紅潮していて、表情からも言葉からも喜びを露わにしているのが分かった。でも何故彼女がそんな風になっているのかが全く見当がつかなくて、僕達だけでなく敵であるプラズマ団のポケモン達ですら唖然としてしまう。

するとそれを見かねたからか何なのか、テラキオンが大きな溜め息を吐いて口を開いた。


〈あーあー…コバルオンのヤツ、余計なことを言っちまったな〉

〈え、何?どういうこと〉

〈ビリジオンはな、大の女好きなんだよ〉

〈………へ?女好きって…、〉

〈言葉の通りだ。どこまでの意味かっていうところの判断は任せるが、アイツは男より女の方が好きなんだと。それで、ここに来る途中でコバルオンが俺らにそのヒナタって人間と出会った時のことを話したんだよ。そうしたらまぁ会いたい会いたい煩くてなぁ…。あとは見ての通り、それが実現しそうだから狂喜乱舞してんだろ〉

〈た、確かに…オレが一緒にいた時も、メスのポケモンとばかり仲良くしてたぞ。ビリジオンも女だから別に普通のことだと思っていたけど、そういうことだったのか…〉

「…トウヤ、女性が女性を好きになることもあるのかい?」

「ちょっと待ってN、さすがの俺もいきなり過ぎて意味が分からないよ」


本人に話が聞こえていない状況だから余計にとはいえ、あのトウヤを少なからず動揺させるなんて…やるねN。ってそんなことはどうでもいいとして。まぁ…うん。世の中には色々な趣味趣向があるということだろう。澪だってそういう意味ではないにしろ男よりヒナタちゃん優先だし。というか伝説クラスなのに人間の女の子も守備範囲なのかな。あ、僕達も似たようなものだからそこは関係ないのか。


〈雷士といったか…すまない。私がビリジオンに話をしたばかりに、ヒナタを危険に晒してしまうかもしれない…〉

〈な、何だと!?あの女はヒナタ様にとって危険な存在なのか!?〉

〈まぁ何て失礼な!これだから殿方は好ましくないのですわ。わたくしはただコバルオンが目をかける程に可愛らしいというヒナタさんにお会いしたいだけですのに!〉

〈嘘つけ。絶対頬ずりとかして撫でくり回すだろ〉

〈な、な、な、何ぃいいいい!?おのれヒナタ様に対して不埒な行いは許さん!!〉

〈おやおや、テラキオンも蒼刃に余計なことを言ってしまったようですね〉

〈心底くだらねぇ…〉


こんな状況なのに敵を放ったらかしにして呑気にやり取りしている僕達って何なんだろうね。まぁでも、それだけ余裕が出てきたと思えば良いことなのかもしれないけれど。紅矢が呟いた言葉に対して苦笑いを浮かべているNを見てそう思った。ていうかコバルオンもヒナタちゃんのことどんな風に話したのだろう。ビリジオンの様子からして可愛いってことは間違いなく話した感じだけど。



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