long | ナノ







3

「…いつまで余裕を持っていられますかね?アナタ方が不利だという状況は何一つ変わっていないのですよ。むしろ…、」

〈!〉

「悪化したといったところでしょうか?」


アクロマがパチンと指を鳴らした直後、洞窟の奥から更にポケモンを連れたプラズマ団が現れた。だいぶ倒したと思っていたのに、それを補って余る程の人数が増援として登場し戦局は振り出しに戻る。


〈まだこんなにいたのか…!〉

〈ゴキブリみてぇな奴らだな。〉

〈今ここに嵐志がいたらナイスツッコミ!とか言ってるだろうね。〉


紅矢の一言で不覚にもちょっと笑ってしまった。本当ゴキブリだよ、こんなにもワラワラ出て来られたらさ。


「アナタ方がレシラムとゼクロムを使って来るのは予想していました。ですから奇襲するならこの場所でと決めていたのです。強すぎる故に真の力を出すことが出来ない…先程の戦い方を見た限り、やはり地の利はこちらにあるようですね。」


図星をつかれてレシラムとゼクロムが不機嫌そうに顔を顰めたのが分かった。まさかそんなところまで読まれているとはね…。


「この作戦を取ったもう一つの理由、それはアナタ方が従えるその伝説のドラゴン達を疲弊させることです。体力が削がれれば削がれるほど私達の理想に向け動きやすくなりますので。」

「お前…本気でゼクロム達がやられるとでも思ってるの?」

「いいえ、実に素晴らしい能力をお持ちのアナタ方がこの程度で全滅するとは思えませんし、団員達にそこまで望んでもおりません。先程も申し上げた通り、レシラムとゼクロムを最大限疲弊させることが出来れば上々というところですね。」

「ならばここでボク達を戦わせて、その後は何をするつもりなんだい?」

「それは私達の元まで辿り着けばすぐに分かることですよ。この場を切り抜け、アナタ方の大切なヒナタさんが待つ最深部まで…ね。」

〈ちっ…いちいち腹が立つ野郎だ。〉


紅矢の意見に僕も賛成。何かコイツの言い方とかやり方って回りくどいんだよね。それにしても…あのゲーチスとかいう男とアクロマは何を考えているのかな。レシラムとゼクロムを疲弊させたいだけならヒナタちゃんを人質にする必要なんてないだろうし。


「おっと…少々話し込んでしまいましたね。今のゲーチス様はあまり気の長い方ではありませんので戻るとしましょう。では元英雄様方、せいぜいご武運を。」

「!待て!」


トウヤが上げた制止の声を小馬鹿にするように笑った後、アクロマは再び洞窟の奥へと姿を消してしまった。するとアクロマが去ったことを合図にプラズマ団員達が再び攻撃を仕掛けようとにじり寄って来る。僕達は完全に囲まれて、背を預けるような形でじわじわと追い詰められてしまった。

…ダメだ、相手の思考を深く分析するのは僕の分野じゃない。それは氷雨やトウヤに任せよう。多分ヒナタちゃんを攫った理由も、僕達を大人しくさせる為とかそんな感じだろうし。ヤツらを叩き潰す動機としては十分だ。


「トウヤ…どうする?せめて妨害電波の届かないところまで戻ることが出来たらいいと思うのだけれど。」

「それは多分難しいね。ほら、退路はより大人数で固められている。だったら戻るよりもこのまま奥へ進む道に向かって突破した方がいい。」

〈ですね。背後を取られる危険を負わねばなりませんが、例えばレシラムかゼクロムが一点に集中して攻撃すれば通り道くらいは拓けるでしょう。〉

〈うむ。その程度ならば全力で無くとも易きことだ。〉

〈N、トウヤに通訳。〉

「あっ、えぇと…氷雨達も賛成だって。それとレシラムかゼクロムの技で一点を攻撃して道を作ろうってことなのだけれど…。」

「分かった、俺も異論はないよ。」

〈…とは言うものの、やはり消耗が激しいのは否めんがな。〉


ゼクロムの呟きは僕の耳にしっかり届いていて、残念だけどその通りだと思った。実際体力バカの蒼刃と紅矢に、汗を流すところなんか見たことがない氷雨ですら息を乱している。ケルディオはまだ少し余裕が残っていそうだけど、僕もこれ以上は正直キツイかな…ヒナタちゃんを助ける為に体力は温存しておかなければならないのに。勿論そんな泣き言を言っている暇など無いことも分かっているけれど。

レシラムとゼクロムの様子もそれとなく見てみると、僕達程では無いにしろ至るところに傷を負っているのが分かる。トウヤやNもそれに気付いていて、でも敵に囲まれたこの状況では悠長に回復させることも出来ず、やり場のない悔しさを込めるように拳を握り締めていた。


「今はヒナタのポケモン達も預かっているのに…俺の力不足で本当にゴメン。もっと思考を張り巡らせるべきだった。でも頼む、もう少しだけ皆の力を貸して欲しいんだ。」

〈…N、あれだけ自信満々で余裕たっぷりだった癖に何を今更ってトウヤに言って。〉

「え?で、でもそれって…、」

〈違う!雷士は頼まれずとも戦うという意味で言っているんだ。無論俺達もヒナタ様をお救いする為、誰の指示が無くとも勝手にやるから構う必要はない。〉

〈蒼刃、それでは余計に通訳し辛くなってしまいますよ。つまりは皆で力を合わせて切り抜けましょう、ということで結構かと。〉

〈テメェにしちゃ随分生温い解釈じゃねぇか。〉

〈そうなのか?オレも氷雨と同じ気持ちだぞ!〉


紅矢の言葉が嫌味なのだと気付いていないのか、ケルディオだけが無邪気に笑っている。でもピュアなのはNも同じで、あぁそういうことかと嬉しそうにトウヤへ伝えていた。


「…うん、ありがとう。じゃあ皆、よろしく頼むよ!」


トウヤの一声で僕達は一斉に前方へ意識を向けた。進むべき道を拓く為に狙う所はただ1つだ。敵も同様にいつでも飛び掛かれるよう身構えている。そこへ先んじて一歩を踏み出したのはレシラムで、攻撃を仕掛ける役割は自分が担うつもりらしい。こういうのは面倒だと感じるタイプだと思っていたから、意外と伝説のポケモンとしての風格みたいなものがあるんだなと不覚にも少し感心してしまった。

そこにいるだけで圧倒的な威圧感を醸し出すレシラムに睨まれ、敵が少し怯えているのが見て取れる。その様を一瞥したレシラムが口を開けて大きな火球を作り上げると、更に体を強張らせたのがこちらにも伝わってきた。うん、これだけでも十分な威嚇になるね。先手を打って攻撃してくるような勇気のあるヤツもいないみたいだし。


〈不敬なる愚か者共よ…即刻道を開けるがよい!〉


瞳を見開いたレシラムに呼応するように火球が一際激しく燃え盛る。そしてまさに放たれようとした、その時だった。


「ぐわぁあっ!!」

〈!?何だ…!?〉


突然僕達の背後から響いた悲鳴や呻き声。レシラムもすかさず異変に気付いて攻撃を一時中断させる。悔しいかな体が小さいせいでよくは見えなかったけれど、僕達ではない誰かがプラズマ団を攻撃しているようだった。


〈おらおらどきやがれっ!!〉


〈…!今の声は…っ〉

〈ケルディオ?〉


喧騒の中、僅かに聞こえてきたのは知らないポケモンの声。でも唯一ケルディオだけは声の主に覚えがあるらしい。

僕達が入ってきた入口の方から真っ直ぐこちらに向かってくるそのポケモンの気配。しかもどうやら1匹だけではなく、他にも仲間がいるようで共に暴れているのが分かる。僕達が唖然としている間にプラズマ団はみるみる蹴散らされていき、とうとうそのポケモン達の姿がハッキリ見えるまでになった。


〈ったく、どいつもこいつもだらしがねぇな!〉

〈脳味噌まで筋肉で出来ているあなたと比べては敵方もお気の毒ですわね。〉


地に伏したプラズマ団のポケモン達を見下ろしながら現れたのは2匹のポケモン。片方は茶色と灰色を主とした体色にがっしりした体つき、そしてもう片方は全体的に鮮やかな緑色の体でとてもスラリとしている。このように2匹の見た目は全く違うけれど、でも纏うオーラというか…とにかくそういう目に見えないところが何となく似ているような気がした。


〈やっぱり…!テラキオン、ビリジオン!〉

〈!お前、ケルディオじゃねぇか!〉

〈まぁ、あなたどうしてこんな所に…!〉


パァッと瞳を輝かせたケルディオが声を弾ませる。その呼び掛けに反応した2匹も、驚いたような表情を浮かべたあとはすぐに嬉しそうな笑顔を見せていた。


〈テラキオンにビリジオン…確か以前コバルオンが話していた連中だ。〉

〈だよね。ということはそのコバルオンも…、〉

〈おいお前達、ここは敵の巣窟なのだからもう少し慎重に…ん?〉

〈やっぱり、いたね。〉

〈コバルオン!〉


テラキオンとビリジオンの更に背後から現れたのはコバルオン。会うのは随分と久し振りな気がする。あ、氷雨はまだ仲間になっていない頃だから初対面だね。


「これは…凄いな、圧巻だよ。まさか伝説の聖剣士が揃うなんて…!」


クールなトウヤもさすがに興奮を隠せないらしい。ま、それも当然だよね…何と言ってもイッシュ地方の伝説のポケモン達がこれだけ集まっているんだからさ。


〈雷士、どうやら僕達も運に見放されてはいないようですね。〉


氷雨と目を見合わせて互いに頷く。本当に…ナイスタイミングってヤツだよ。間違いなく彼らは最高の助っ人といったところだろう。


プラズマ団の前に立ちはだかった彼らの後ろ姿はとても頼もしい。ここは薄暗い洞窟の中だけれど、僕の目には強い希望の光が差し込んだ気がした。



to be continue…



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