long | ナノ







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「どうだ?」

〈…あちこちにポケモンはいるが…恐らくどの者もここに住んでいる野生だな。ヒナタ様達以外の人間の波動も、ここから察知出来る範囲では感じられない。待ち伏せなどはされていないようだ。〉

「そうか、それを聞いて安心した。」

『確か蒼刃は1キロくらいの範囲まで探れる筈ですから…そうなると危険もあまり無さそうに感じますね。』

「一先ずはね。でもやっぱり警戒するに越したことはない。俺は何度かこのジャイアントホールに来たことがあるけど、見ての通り中も広いし奥まではかなり道が続いているんだ。」

『そうなんですか?』

「うん、これは俺の予想だけど…多分キュレムは今この洞窟の一番奥深くにいる。それこそ何十分も歩かないといけないような場所にね。蒼刃が探ってくれた1キロ圏内が安全だったとしても、それ以上先にいるキュレムに辿り着くまでには必ず妨害を受けると思う。」

「それはそうだろうな。入口付近にプラズマ団がいないのは、洞窟内に万遍なく配置出来るほど人員が足りていない故の可能性もあるが…キュレムの周囲はしっかり固めてあるだろう。」

〈…つまり何だ?俺では能力不足だとでも言いたいか。確かに今の俺は1キロ範囲を探るのが限界だが鍛錬を続けて距離を伸ばし更にヒナタ様のお役に立って見せ、〉

『ちょ、ストップストップ!落ち着いて蒼刃!』

〈蒼刃も結構気が短いよね。〉

〈というか思考回路がヒナタ君関連に直結するんじゃないですか?今のも恐らく…能力不足だと思われたイコールヒナタ君の役に立っていないと思われた、といった具合に。〉

〈おー、なるほど!さすがさめっち!〉

『分析は後にして手伝ってくれませんかね!?』


今にもトウヤさんやレシラムさんに掴みかかりそうな蒼刃を慌てて止める。結局手を貸してくれたのは疾風だけだった。目が据わっている蒼刃は正直怖かったからとても助かったよ、ありがとう…。

トウヤさんはそんなあたしの姿と蒼刃の表情を見て何を言わんとしたのかが伝わったらしく、あぁ、と声を漏らしてからクスクスと笑い声を上げた。


「ゴメンゴメン、怒らせるつもりじゃなかったんだ。むしろ君の力は凄いんだよ。1キロ先まで波動を探れるのはよく鍛えられたルカリオだけって聞いたことがあるし…。」

「トウヤは別のことが言いたかったのであろう?」

「うん、さすがゼクロム。分かってるね。」

『別のこと…?』

「蒼刃の能力を見込んで、このまま俺達と一緒にキュレムの元まで行ってほしいんだ。波動を探りながら歩いていけば相手よりも先に仕掛けられるだろうから。」

「そうか!もし待ち伏せされていたとしても、波動が見える蒼刃からは逃げられないというわけだね。」

〈へぇ…!蒼刃ってスゴいんだな!〉


なるほど、トウヤさんが言いたかったのはこのことだったんだ。確かに蒼刃ならどんな風に隠れていても相手を見付けられるもんね!


〈そういうことならば俺に異論はない。元々アジトでの二の舞を踏まない為にも、ボールから出てヒナタ様のお傍に付いていようと考えていたからな。〉

〈あ、ぼっボクも!ボクもこのまま、外にいてもいい?〉

『え?』

〈オレもオレも!姫さんが心配だもんなー。〉

〈…ジッとしてんのも飽きたしな。付き合ってやってもいいぜ。〉

『みんなまで…。』


疾風や嵐志はいつも優しいけれど、あの紅矢がこういうことを言い出すなんて珍しい。単純にボールの中に飽きただけだとしても、そう思ってくれた気持ちが嬉しかった。少しは心配してくれたのかな?


「ヒナタ?」

『あの、トウヤさん。他のみんなもこのまま一緒に行くって言ってくれてるんですけど、それでも大丈夫でしょうか…?』

「うーん…そうだな…。まぁ、いいんじゃない?その方が安心出来るっていうなら、」

「いいえ。あまり得策ではないでしょう。」

『!氷雨!』


トウヤさんの声を遮って発言したのはいつの間にやら擬人化していた氷雨だった。多分ポケモンの言葉が分からないトウヤさんに、自分の意見を伝えやすくする為にその姿を取ったのだろう。


「蒼刃の能力を使うのは賛成ですが、僕達全員をゾロゾロと連れ歩くのは賢明ではないと思いますよ。仮に人型で行動するとしても、ヒナタ君達を入れて計11人…。小さくて邪魔にならないでしょうから除外しましたが雷士も含めると12人です。原型では言わずもがな、さすがに目立ってしまい敵に狙われやすくなるでしょうね。」

〈ちょっと何気に僕のことバカにしたよね今。〉

〈まーまー、ここは抑えろってらいとん!〉

「…言われてみるとそうかもね。」

「えぇ。僕も初めはプラズマ団のアジトでボール操作を妨害されたときの教訓を生かし、予め全員がボールの外に出た状態で目的地に向かうのがいいと思っていました。ですが先ほど言った通りそれでは目立ち過ぎてしまう。」

〈じゃ、じゃあ…蒼刃だけ残して、ボク達はボールに戻った方がいいの…?〉


悲しげな声で問いかけた疾風に対し、氷雨は珍しく…本当に珍しく、優しい笑みを浮かべて首を振った。



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