long | ナノ







3

「侵入者?」

「はい、先程甲板で見張りをしていた団員が倒れているのを発見しました。何らかの攻撃を受けたのか意識は朦朧としておりますので詳しい話は聞けておりませんが…ただ、団員の傍には支給された物以外の靴跡とポケモンの足跡が残っておりました。故に何者かがこの船に侵入したものと…。」

「ふん…ここを嗅ぎつかれるとは少し表立って動き過ぎましたか。ですがまぁいいでしょう、例え船内に入り込めたとてアレやワタクシの元には辿り着けないでしょうから。」

「では…このまま放っておかれるのですか?」

「そうですねぇ…放っておいても問題ないとは思いますが、少しその侵入者とやらがどのような人物か興味があります。全モニターを起動し隈無く探しなさい。」

「…ふふ、かしこまりました。」


眼前の人物に軽く頭を下げた男は口元に笑みを浮かべ踵を返す。珍しく心から楽しそうにしているその男を見送った人物は訝しげに目を細めた。


「…何を企んでいるかは知りませんが、せいぜいワタクシの妨げにはならぬ方が身の為ですよ。




…アクロマ博士。」




頬ずえをつき、嘲笑を浮かべる男のモノクルが不気味に光を放った。




ーーーーーーーーーー




「おらテメェさっさと吐きやがれ。断るっつーなら全身消し炭にすんぞ。」

「ひ、ひぃいいい!!」

『タンマ!紅矢様タンマ!どっちが悪者か分かんなくなってる!!』

〈もうちょっと声落としなよヒナタちゃん。〉


床に這い蹲り紅矢の足で背中をぐりぐりと踏みつけられているプラズマ団員。その表情からは紛れもない恐怖と命の危機を感じ取れる。雷士の言うことはもっともだけど、さすがにこの状況では声を出さずにいられないよ…。

一体何がどうしてこうなったのかと言うと、まずあたし達は船内に侵入した途端たまたまそこを通り過ぎようとしていたこの団員さんに早速見つかってしまった。

そして案の定バトルになって最近あんまり出てなかった紅矢にお願いしたら見事にボコボコにしてくれたんだけど…。バトルが終わった後キュレムの場所なんか手っ取り早く聞いた方が早ぇと言った紅矢が、擬人化してこの団員さんを実力行使で脅し始めたというわけです。


「んだよ止めんなアホヒナタ。この方が効率的じゃねぇか。」

『紅矢からすればね!でも怖いの!特に紅矢の目と牙!一生残るトラウマを植え付けられる方の気持ちにもなってみてよ!』

〈それ確実にヒナタちゃん個人の申し立てだよね。〉


お黙り雷士!余計なこと言わない!あたしの必死の説得により何とか足を退けた紅矢に大きく溜め息を吐く。ほら見て団員さんの顔!涙と鼻水でぐしゃぐしゃになってるじゃんさすがに可哀相だわ!


『はぁ…人から穏便に物を聞き出すには一番ダメなチョイスだね…。』

〈場合によっては適任だけどね。〉

〈こ、紅矢って強いんだな…!コバルオン達にも負けないかもしれないぞ!〉

『うん、見習っちゃダメだからねケルディオくん。』


さて…未だにブルブル震えてるこの団員さんは何か知っているだろうか。申し訳ないけどこの状態ではもう本当に何も出来ないだろうから警戒しなくても大丈夫だろう。


「…っあ、あの、助けてくれてありがとうございます…。」

『え?あ、そ、そんなお礼を言われることじゃ…!元はと言えばウチの暴君が悪いので!』

「コイツ後で仕置き決定だな。」

〈手伝うよ楽しそうだし。〉

〈それって楽しいことなのか!?オレもやるぞ!〉

『お願いだから静かにしててドSコンビ!そしてケルディオくんを巻き込まないで!』


やだな、どうしよう本当にお仕置きされたら…ってそんなことより!団員さんの方から声をかけてきたことに少し驚いた。よく見たらあたしより少し上くらいの若い人みたいだし…よっぽど紅矢が怖かったのかも。


『あの、乱暴してゴメンなさい。あたし達ここに戦いに来たわけじゃないんです。キュレムっていうポケモンを探しに来たんですけど…居場所を知っていたら教えてもらえませんか?』

「キュレムを…?あ、あなたは一体…。」

「人のこと詮索する前に質問に答えろコラぶっ殺されてぇのか!!」

「わぁぁあああ!!い、言います言いますすみませんんんん!!」

『紅矢様ステイ!ハウス!本当に怖すぎだから!!』


全く紅矢ってば短気過ぎ…!せっかく落ち着きかけてたのにまた震え出しちゃったじゃん団員さん!

呼吸困難を起こしそうな勢いの団員さんの背中を撫でて何とか落ち着かせる。何だろう、この人何だか憎めないな…紅矢に怯える気持ちは分かるし。


「す、すみません…えぇと、僕は下っ端中の下っ端なので…お恥ずかしながら直接キュレムを見たことはないんです。でも、先輩達がキュレムを船底に拘束したって言ってました。」

『船底…そこに行くにはどうすればいいですか?』

「そ、それが…船底に行く通路は幹部様クラスでないと知らないんです。で、でも船底を見下ろせる場所なら知ってますよ!」

『本当ですか!?教えて下さい!』


キュレムの居場所へ直接行けるわけではないようだけど、これで限りなく近い所までは行けそうだ。ありがとう優しい団員さん!あなたはあんまりプラズマ団に向いてないよ!

聞く所によると今いる部屋を出てひたすら真っ直ぐ行った突き当たりの扉から船底の真上に出ることが出来るらしい。多分キュレムの姿を見ることが出来るんじゃないかとのことだから、あわよくばキュレムに語りかけることも出来るかもしれない。


『ありがとうございました!もし他のプラズマ団員に会ったとしても、あなたのことは喋りませんから!』

「逆に俺達のことを誰かに喋ったらどうなるか分かってるよなぁ?」

〈命は無いと思いなよ。〉

『ちょぉおおどこのヤクザ!?』

〈へぇ、こういう時はそんな風に言うのか!〉

『ゴメン真似しないでねケルディオくん!!』


今更だけどこんなに騒いで大丈夫なのかな…いやまぁ、本当に今更か。ポカンとした表情を浮かべたままの団員さんに軽く頭を下げ、教えてもらった通り部屋を出て真っ直ぐ進む。

船内を包むひんやりとしたこの冷気もキュレムの力なのだろうか。でもどうしてかただの寒さだけじゃなくて、どこかチクチクと指すような嫌なものも感じる。

しばらく走って辿り着いたのは黒くて大きな扉。この先にどんな光景が待ち受けているのかは分からないけど、一緒に来てくれたケルディオくんと力を合わせて頑張らないと。

あたしは1つ息を吐いて扉に手をかけた。



to be continue…



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