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相変わらずセイガイハの街並みは穏やかで綺麗だ。この美しい街の外れにプラズマ団が潜んでいるだなんて信じられない。
…けれど、とりあえず今はあたしの隣を歩く子へ向けられる視線の方が気になるかな!
「ねぇねぇ、あのポケモンて何て名前?」
「さぁ…別の地方のポケモンかも。見たことないし。」
(まぁそうだよね…この地方のポケモンではあるけど何と言っても幻のポケモンだからね!)
しまった…この可能性はすっかり忘れていた。ケルディオくんという非常に珍しいポケモンへ向けられる好奇の視線を、彼だけでなくあたしや雷士にも否が応に浴びせられる。でもこの子はあたしのポケモンじゃないからボールにも入れられないし、困ったなぁ。
当の本人は大丈夫だろうかと視線を向けると、意外にも平気そうな顔をして雷士と会話していた。…もしかしたら気付いていないだけかもしれないけれどね。
〈…?ヒナタ、どうかしたのか?〉
『え!?あ、えっと…ケルディオくん、大丈夫なのかなって。』
〈怪我なら全然平気だぞ!もう大丈夫だ。〉
〈違うよ、ヒナタちゃんは人間達にジロジロ見られて平気なのかって言ってるんだよ。〉
『ちょっ雷士!言い辛いことをそんな堂々と…!』
〈…あ、そう言えばコバルオン達にもあんまり人間に姿を見せるなって言われてたな…。じゃあ、〉
と、そこまで呟いたケルディオくんの体が白い光に包まれた。え、この感じはまさか…!
『ケルディオく…うわぁっ!?』
デジャヴにも似たその光景に目を奪われ、光が段々と消えていくまで見つめ続ける。そしてあたしよりも少し背の高い人影が現れたのを見た瞬間、その人影が何故か思い切りあたしにぶつかってきた。
…いや、ぶつかってきたかと思うほど強く抱き締められた、と言った方が正しいかもしれない。背中に回された腕が容赦なくあたしを締め付けるものだから正直とっても苦しい。衝撃によってコロリとあたしの肩から落ちてしまった雷士も、目を瞬かせ珍しく驚いている様子なので完全に油断していたのだろう。
「へへ、ヒナタがしたがってたギューッてヤツだぞ!」
『っや、あの、発言はとっても可愛いんだけどこの姿ではちょっと…!』
〈…とりあえず離れなよ。〉
「おっ?」
『わ!?』
あたしとケルディオくんの足元に向けて放たれた電気がバチッと音を立てて弾けた。ら、雷士くんが怒っている…!今の静電気のレベルじゃなかったよ!?あれか、突然転がり落ちちゃったことが不満なのか!
ともかくこのまま引っ付いていて雷士に攻撃されるのは御免だ。あたしを締め付ける腕を軽く叩くとその意図を察してくれたのか、少し不満そうではあったけれど解放してくれた。
「むー…もっとヒナタのことギュッてしたいぞ。」
『やだちょっとそんな綺麗な顔で可愛いこと言わないでお願い!頭撫でたくなるから!!』
〈バカ言ってないでさっさと行くよ。〉
『いったぁ!え、お怒りなんですか雷士くん!?』
〈うるさい。〉
そう言ってもう一度尻尾ビンタをかました後、よじよじとあたしの肩に乗り直した雷士。うーん、これだけお怒りということはちょっと騒ぎすぎたのかな…。
ひとまず本来の目的の為にケルディオくんと並んで歩みを進めるのだが、とりあえず思うのはこのケルディオくんも雷士達と同じように美形だということだ。
両サイドだけ藍色ではあるが朱色ベースの髪に、意志の強そうなパッチリとした大きな瞳。コバルオンやレシラムさんよりもラフな服装が無邪気なイメージのケルディオくんにマッチしていて、少年とも青年とも言える爽やかな外見だった。
(本当にポケモンって美形さん多いよね…。)
「あ…ヒナタ、見えてきたぞ!」
『!』
ケルディオくんの足が止まり、指差した方に目を向けるとそこには大きな空洞が見えた。きっとあそこが海辺の洞穴の入口なのだろう。
『よし…プラズマ団がいるかもしれないから慎重に行こうね。』
「大丈夫だぞヒナタ、オレが悪いヤツからヒナタを守るからな!」
『ゴメンやっぱり頭撫でさせてくれるかなケルディオくん!!』
〈慎重に行くって言ったばっかりだよね。〉
そう言ってワザとか本気か分からないけれど大きな溜め息を吐かれてしまった。だってケルディオくん可愛いんだよ…あたしにとって第2の疾風になりそうな予感がする。
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