long | ナノ







3

『ジョーイさん、あの子の容態は…?』

「大丈夫よ、傷は多いけどどれも命に別状は無いわ。一晩ゆっくり休めば元気になる筈よ。」

『よ、良かった…!ありがとうございますジョーイさん!』


本当に、良かった。あの一本角くんは今は治療を終えて眠っているらしい。それにしても…一体どういう名前のポケモンなのだろうか。


『あの、あの子がどういうポケモンなのかってご存知ですか?』

「えぇ、名前はケルディオ。滅多に人前には姿を見せないとても珍しいポケモンよ。」

『ケルディオ…ですか。』

「そう、イッシュに伝わる伝説の1つにも登場するポケモンなの。何でもその昔、聖剣士の3体に拾われて修行を積んでいる見習い剣士だとか…。」

『…見習い…え、見習い!?』

「そ、そうよ?どうかした?」

『っあ、い、いいえ…!何でもないです、ありがとうございます!』

「そう?じゃあ私はそろそろ戻るわね。ケルディオはそこの奥から2番目の部屋にいるから、良ければ興奮させない程度に会いに行ってあげて頂戴。」

『はい!』


タブンネちゃんと共に受付へと戻るジョーイさんを見送った後、あたしは先程の言葉を脳内で繰り返した。見習い、剣士…それは確かに聞き覚えのある言葉。

そう、以前カゴメタウン到着寸前に出会ったコバルオンが言っていた言葉だ。コバルオンを含む3体の聖剣士に鍛えられている中、己を磨くと言って旅に出た後継者。


(コバルオンは行方知れずって言っていたけど…まさかこんな所で出会うなんて。)


コバルオンと連絡が取れたらいいんだけどなぁ…でもそんな訳にもいかないから残念。まぁ予想外だけどせっかく出会えたんだし、少しでも話をしたい!


『じゃあ飲み物でも買って皆でお見舞いに行こっか!』

〈ん、了解。〉

「おいヒナタ、モモンジュース忘れるんじゃねぇぞ。」

『はいはい分かってますよー。あ、ほらあそこに自販機ある!』


隣に立つ横暴キングの威圧感に押されつつもジュースを買い、他の皆にも擬人化してもらってケルディオがいる病室へ向かう。

一体ケルディオはどんな子なのだろう、仲良くなれるといいな。病室へ近付くにつれてあたしは胸を高鳴らせていった。




ーーーーーーーー




(おぉ…グッスリだね。)


静かに病室へ入るとケルディオはスヤスヤと眠っていた。そっと近付き改めてその体を見てみると、やっぱり至る所に傷があって痛々しい。

殆どジョーイさんに手当てしてもらっているから大丈夫だとは思うけれど…薄く残ってしまっている古傷もある。この子もきっと、蒼刃のようにたくさん修行を積んで来たのだろう。

物知りな氷雨は事前知識があったみたいで大した反応はしなかったけれど、嵐志や疾風は初めて見るケルディオに興味津々でうずうずしている様子だ。あたしはそんな2人を見て笑みを浮かべ、ケルディオのフワフワとした鬣を小さく撫でた。


〈…っう、ん…?〉

『!』


ヤバい、起こしちゃった…!

どうしようと慌てていたらケルディオがゆっくりと起き上がり、その丸い瞳であたしを見つめて来た。な、何だろう…とりあえず笑っておこう!と思い笑むと、何とケルディオもニッコリ笑い返してくれたのだ。


『…っか、可愛い…!』

〈可愛い?オレが?〉

『あ、えーと、不快にさせちゃったならゴメン!』

〈別にそんなことないけど、オレよりキミの方が可愛いぞ?〉

『…ゴメンねケルディオくん、抱き締めてもいい?』

〈だきしめるって、ギュッてすることか?うん、いいぞ!〉

『わーいありがと…っていったぁあ!何今の超痛かったんだけど雷士くん!何かいつもより電撃強くない!?』

〈無性に殺意が沸いてつい。〉

『とうとう殺意抱かれるようになっちゃった!?』

「おやおや…。」


ひ、ヒドいよ雷士…!殺意って最終地点じゃん!せっかくケルディオ君がOKしてくれたのに死んじゃうよあたし!

あ…ちなみにケルディオくんは一人称がオレだったし声も中性的だったので、一応男の子という認識でいくことにしました。ていうか可愛い!可愛いよケルディオくん!警戒心も持たれてないみたいだし、これならゆっくり話せるかもしれない。


〈…キミ、オレの言葉が分かるのか?そんな人間がいるなんて聞いたことがない。〉

『あ、まぁ普通はそうかもね…でもあたしは何故か分かるの。気持ち悪い?』

〈ううん、楽しいぞ!キミからは悪い感じがしないし…ポケモンと話せる人間なんて面白い!〉

『あは、そっかありがとう!』


無邪気に笑うケルディオくんにあたしも釣られて笑顔を浮かべる。落ち着いた雰囲気のコバルオンの弟子だって聞いたから似た感じなのかなと思っていたけれど、これは良い意味で予想を裏切ってくれたと思う。


『あのねケルディオくん、ここはポケモンセンター。岩場で倒れてた君を見つけてジョーイさんっていう人に治療してもらったんだけど…気分はどうかな?』

〈そう言えば…どこも痛くない。キミがここまで連れて来てくれたのか?〉

『ううん。ここにいる蒼刃が君を見つけてくれて、今そこでモモンジュースを飲んでる紅矢が運んでくれたの!』

〈…このニオイ、人間の姿をしてるけどポケモンだな。そうはと、こうや…それがキミ達の名前か?〉

「あぁ、俺の種族名はルカリオで彼奴はウインディだが…それとは別に、ヒナタ様から頂いた大切な名がある。それが蒼刃と紅矢という名だ。」

『あたしの肩に乗ってるピカチュウは雷士って言うんだよ。それと奥から順番にラプラスの氷雨、フライゴンの疾風、ゾロアークの嵐志!みんなあたしの仲間なの!』

「よ、よろしく…!」

「仲良くしよーぜ!」

「どうぞお見知りおきを。」


その場にいた全員を紹介すると、1人1人の顔を見ながら名前を呟いたケルディオくん。そしてよろしくと笑った後に、何だか少しだけ寂しそうな顔をした。


(…もしかして、仲間が恋しいのかな?コバルオン達と会いたいのかも…。)


音信不通の上どこにいるかも分からないとコバルオンが言うのだから、きっと何日も…あるいはそれ以上にケルディオくんは姿を見せていないのだろう。一体何をしていたのかと聞いたら教えてくれるだろうか。


『ねぇケルディオくん、君はどうしてあそこに倒れてたの?傷だらけだったし気になって…。』

〈…決闘を、してたんだ。一人前と認められる為に。〉

『決闘?』

〈うん、キュレムって言うポケモンとな。〉

『へーキュレム……キュレム!?ケルディオくん、キュレムと会ったの!?』

〈う、うん。キミもキュレムを知ってるのか?〉

『す、少しだけ…でも何でキュレムと?』

〈オレが聖剣士として認められる為には強い相手と闘って力を示さないといけないんだ。それで、キュレムって言うとても強いポケモンがいるってことを昔聞いたのを思い出して…決闘を申し込んだ。〉

『そ、そうなんだ…。』

「決闘の後傷だらけで倒れてたっつーことは、負けたのか?」

〈違う!…まだ、決着はついてない。〉

「ど、どういうこと…?」


嵐志が問い掛けた通り、あたしも正直キュレムとの決闘に負けたからケルディオくんはあそこに倒れてたんだと思った。でもそうではないらしい…おまけに決着がついてないって、どういう意味だろう?


〈…キュレムとの決闘の最中、黒い服を来た人間がたくさん洞窟の中に入ってきた。そしてキュレムを変な機械で捕まえたんだ。オレは邪魔されたくなくて出てけって言ったんだけど、ソイツらに一斉に攻撃されて…何とかその場を逃げ切った後そのまま気を失ったんだと思う。〉

『…!』


キュレムを捕らえていった黒い服の人間…それはきっとプラズマ団だ。やっぱりプラズマ団の狙いはキュレムで、彼らの計画に利用する気なのは間違いない。


「それで…その黒い服の連中はどこへ行ったのか分かりますか?」

〈えぇと…大きな空を飛ぶ船で洞窟を出て行った。確かその時、海辺の洞穴へ行くって言ってたと思うぞ。〉

『海辺の洞穴…?』

「セイガイハから南に行った場所にある洞穴ですね。…ちょうど彼が倒れていた位置から更に奥へ進んだ所でしょうか。」

『さすが氷雨様!』


様々な知識が詰め込まれてる氷雨はこういう時も大変頼りになる。で、ケルディオくんがくれた情報だけど…プラズマ団はキュレムを捕らえた後、飛行船で海辺の洞穴へ向かったと。


〈…オレ、その洞穴に行くぞ。まだ決闘は終わってないし…それに、あの黒い人間達は悪いヤツらだ。キュレムも捕まった時苦しそうだった…だからオレ、キュレムを助けたい。決着をつけるのはそれからだ!〉

「いい心構えだ、お前は必ず良い戦士になるぞ!」


蒼刃の言う通りだ、ケルディオくんの強い瞳と心…きっと彼は強くなるだろう。いつかの疾風のように真っ直ぐなそれは見ているこちらの胸も熱くさせる。


〈…ヒナタちゃん、その顔…君も一緒に行くつもりなんじゃないだろうね。〉

『う…!ば、バレちゃった?』

〈はぁ…だから君は全部顔に出るんだって言ってるでしょ。まぁどうせ止めても行くんだろうから仕方ない、僕も付き合ってあげる。〉


溜め息を吐き心底面倒臭そうな顔をしつつも、雷士もちゃんとついて来てくれるらしい。ケルディオくんの心意気を気に入った蒼刃は勿論、他の仲間達も皆同意のようだ。ありがとう皆…!さすがノリが良いね!


〈え…皆、オレと一緒に来てくれるのか!?〉

『うん、勿論!実はあたし達にとってもその黒い服の人達は無関係じゃないんだ。それにね、雷士達は強いからきっと力になれると思う!』

〈あ…ありがとう!キミ達は良いヤツだ!〉


そうだ、キュレムがプラズマ団の手に渡ったからと言ってまだ全てが終わった訳じゃない。諦めるにはまだ早い。当初の目的とも全く逸れてはいないし大丈夫だよね、それにもしかしたら重要な情報を手に入れられるかもしれないし!

…けど何よりも、ここで出会ったケルディオくんの力になりたい。彼はコバルオン達が見出し、蒼刃が見込んだ立派な勇者なのだから。


〈そうだ、キミの名前は?〉

『あ、ゴメン言ってなかったね!あたしはヒナタ、よろしくね!』

〈ヒナタ…ヒナタ、よろしく!〉


あたしの名前を何度も呼んでぐりぐりと頬ずりしてきたケルディオくんからは、まるで彼自身を現したかのように澄んだ清流のように爽やかな香りがした。



to be continue…



prev | next

top

×