long | ナノ







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涼しげで神秘的なマリンチューブを堪能し、ついにあたし達は目的地のセイガイハシティへと足を踏み入れた。


『わぁ…!凄いね、綺麗だね!』

〈サザナミとはまた違った感じだね。〉


海が近い所か海の上に家が建っており、いつかハル兄ちゃんに見せてもらった写真に映っていたホウエン地方のキナギタウンを思い出す。

人々も楽しそうに海水浴や釣りをして、実に活気に溢れた街だと心が弾んだ。…おっと、遊びに来たんじゃなかったね!


『えーと…ゼクロムさんと相棒さんはどこにいるのかな?ていうかまだこの辺りにいてくれるといいんだけど…。』

〈これでこの街にいなかったらあの白いヤツぶっ飛ばしてやらないと気が済まないよね。〉

『ちょっと雷士くん!?』


怖っ、無表情の負オーラ怖っ!何で雷士ってばレシラムさんのこと嫌いなんだろう…。

とにかく明るい内に少しでも捜索しないとと言うことで、街から少し外れた海辺の方まで歩いてみることにする。

街の活気から離れた砂浜には寄せては返す波が弾け、大小様々な岩達の絶妙な配置を加えまるで一枚の絵画みたいだ。

きっとここから見る夕日は絶景なんだろうなぁと考えていると、隣を歩いていた蒼刃が不意にその足を止めたことに気付く。


『蒼刃、どうしたの?』

「…ヒナタ様、近くに何かの波動を感じます。しかしこれは…。」

『…?』


蒼刃が神経を研ぎ澄ませるように静かに目を閉じる。何かって…何?波動を感じるってことは人かポケモンには違いないと思うんだけど…。

あたしも辺りを見回しながらその答えを待つと、突然蒼刃が目を開きルカリオの姿に戻って駆け出した。


『って、え!?な、何!?』

〈ヒナタ様、これはポケモンです!そして粗く不規則な波動の流れ…怪我をしているのかもしれません!〉

『!』


それが本当なら放ってはおけない。怪我の具合によっては命に関わってくる可能性もある。だから急いで見つけないと!


〈行こうヒナタちゃん、蒼刃を見失うよ。〉

『うん!』


お願い、間に合って。あたしは祈るような思いで慣れない砂の上を走った。




ーーーーーーーーー




〈あの岩場ですヒナタ様!〉

『わ、分かった!』


あたしが遅れないよう気遣いながら走ってくれる蒼刃を追いかけ、傷付いているだろうポケモンがいる岩場まで辿り着いた。

早速岩場を捜索し始めると、丁度陰になっている場所に何かが倒れているのが見えた。すぐさま駆け寄り状況を確認しようとしたんだけど…その姿を見た瞬間、あたしは息を呑んだ。


(…初めて、見るポケモンだ…。)


嵐志よりも明るい赤色の鬣、鮮やかな水色の尻尾…そして額に生えた一本角。ポニータのように馬の姿をしたそのポケモンは、今まで見たどの図鑑にも載っていないポケモンだった。


『そ、蒼刃、この子…知ってる?』

〈…いいえ…お恥ずかしながら俺も初めて見るポケモンです。ただ、弱っているので微かにしか感じられませんが…このポケモンからコバルオンやレシラムに似た波動を感じます。〉

『え…?』


それって、まさか…この子も伝説級のポケモンかもしれないってこと!?うわわ、どうしようどうしよう助けてNさんレシラムさん!


〈何狼狽えてるの、とりあえずポケモンセンターに連れてくのが先でしょ。〉

『はっ!そ、そうだね、蒼刃の言う通り怪我してるし…!』


雷士に諭されて本来の目的を思い出す。そうだ、この子体中傷だらけだし…息も荒い。

ちゃんと意識はあるのだろうかと手を伸ばした瞬間、苦しげだったこの子の目が突然見開いた。


〈ーーーーっに、んげん…!?〉

『わっ…!』

〈ヒナタ様!〉


び、ビックリした…!って、この子もすごく驚いてるみたいだけど。ていうか急に飛び起きちゃって大丈夫なの!?


〈…黒いヤツらじゃ、ない…?〉

『へ?』


黒い奴ら…?それって、と話しかけようとしたら小さく呻いて再び倒れ込んでしまった。…続きは傷が癒えてから聞くことにしよう。

ただ早く運んであげたいのだけど、意外と大きなその体はとてもあたしでは持ち上げられない。蒼刃なら出来る…けれど、この子とほぼ同じ身長だし安定感に欠けるだろう。


『だったら…お願い横暴キング!』


ボールを投げ上げ、飛び出して来たのは目つきの悪い紅矢様。大きく逞しい体を持つウインディである彼なら、この子を乗せて走ることなど造作もないことだろう。


『紅矢、この子を乗せてポケモンセンターまで走って!』

〈あ"ぁ?何でこの俺がンなことしてやらなきゃならねぇんだ。〉

『アイス、クッキー、チョコ、パフェ、おまけに何と今ならモモンジュースが2本ついてくる!』

〈…ちっ、仕方ねぇな。〉

『さすがです歪みなき甘味キング!』

〈何か通販番組のノリになってるんだけど。〉


よっし、紅矢様からOK出た!雷士が何か言ってるけど気にしない!

紅矢に屈んでもらい、蒼刃の手を借りて一本角くんを背中に乗せる。彼が落ちないよう支える為にあたしも一緒に乗り、まさしく風を切るスピードでポケモンセンターへと向かった。



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