long | ナノ







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「待ちたまえ、この子をからかうのはやめてくれないか?」


一歩、この不思議な男の人があたし達に歩み寄った時。Nさんが彼を制止した。でもその表情は決して焦ったり怒ったりはしていなくて、少しだけ呆れているような顔。Nさんが警戒心を持っていないってことは…この人は悪い人じゃないのかな?


「…ふ、ほんの戯れだ。お前達もそう身構えるな」

『!』


彼はNさんをチラリと見た後あたし達に向けて口元を緩めた。途端にピリピリした空気が和らぎ、息苦しさも消える。


「ゴメンよヒナタ、驚かせてしまったね」

『あ、だ、大丈夫です!皆もありがとう、もう平気だよ』


あたしの言葉を皮切りに皆も警戒心を解いて距離をとった。いやーそれにしてもビックリした…冷静沈着な蒼刃や氷雨まであんな反応するんだもん。


「さて…私に臆さなかった度胸に免じて正体を明かしてやろう、よく見ておけ」

『へ…、』


美しく妖艶な笑みを浮かべた彼がスルリと手をかざすとその体が真っ白な光に包まれ、そのあまりの眩しさに思わず目を瞑ってしまった。


「はぁ…ボクからヒナタに紹介するつもりだったのに、ヒドいじゃないかレシラム」

〈お前が話そうと私が話そうと結果は同じだろう、ケチくさいことを言うな〉


…あれ、今…レシラムって言った?


〈…!ヒナタちゃん!〉


珍しく驚いたような雷士の声でゆっくり目を開けると、そこにいたのは。


〈どうだミカン娘、神々しいだろう?〉

『…!!』


大きな純白の体、澄んだ露草色の瞳。まさしくあたしが探していた伝説のドラゴンポケモン、レシラムだった。す、凄い…!資料で見たまんまだ!


『え、ていうかミカン娘って何ですか!?初めてのあだ名!!』

〈ヒナタちゃんの髪がオレンジ色だからでしょ〉

〈その通りだ、よく分かっているではないかタンポポ小僧〉

〈何かイラッとしたんだけど10まんボルトしていい?〉

『わぁああああダメダメ!!レシラムさんにケンカなんかふっかけたら絶対返り討ちにされるって死に急がないで雷士!!』

〈止めるなミカン娘、私ならばいくらでも受けて立つぞ?〉

『受けて立たないで下さいレシラムさん!!』

〈というか何故さん付けなんですかヒナタ君〉


だってだってあのレシラムだよ!?イッシュを創ったと言われるレシラムだよ氷雨様!?逆にあなた達の冷静さ具合にビックリなんだけど!


「っく、くくっ…タンポポとか…!あーヤベぇ笑える!!マジらいとんにピッタリだな!!かわいーぜらいとん!」

〈嵐志には特別にかみなりをお見舞いしてあげるよ〉

「げ!?わ、悪ぃ悪ぃジョーダンだって!!」

「…ははっ、相変わらず仲良しだねキミ達」

『あはは…まぁお陰様で!』


ゴメン雷士、あたしも正直タンポポって可愛いと思ったよ。それにしても意外…見た目はかなり荘厳で神々しいのに、レシラムさんって結構お茶目なんだ。

…あれ、そういえばどうしてNさんとレシラムさんが一緒にいるのだろう。もしかしてNさんが話そうとしていたのって…そのこと?


「レシラム、悪いけれどまたヒトの姿になってくれるかい?他の誰かに見られると厄介だからね」

「言われずとも分かっている」

『!』


再び白い光に包まれさっきの男の人の姿になったレシラムさん。そりゃそうだよね、興奮して忘れかけていたけれどここはポケモンセンターの近くだし…レシラムさんを見られでもしたらきっと大変なことになる。


「さて…ヒナタ、まずは何故ボクがレシラムと一緒にいるかを説明しなければならないね」

『は、はい!気になります!あ、それじゃ移動しましょうか!立ちっぱなしもなんですし…あたし達が借りている部屋でよければどうぞ』

「気が利くなミカン娘、案内しろ」

『はい喜んで!!(あれ、何で肩組まれてるんだろう?…まぁいっか)』

〈貴様ぁあああ!!いくら伝説のポケモンと言えど軽々しくヒナタ様の肩を抱くなど断じて許さん!!〉

〈やっぱり10まんボルトしていいよね〉

〈お、落ち着いて蒼刃、雷士!ダメだよこんな所で暴れたら…!〉

〈おいヒナタのヤツ俺の時と態度違わねぇか。何で大人しく受け入れてんだあのバカは〉

〈まー姫さんレシラムに会いたがってたしなー。拗ねんなってこーちゃん!〉

〈はぁ…本当にヒナタ君は無防備で目が離せませんね〉


頭に?マークを浮かべつつ、Nさんとレシラムさんを案内することに必死だったあたしは皆がこんな会話をしていたなんて気付きもしなかったのである。



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