long | ナノ







4

〈…で、何か弁明は?〉

『アリマセン』

〈うん、じゃあ言うことは?〉

『ご心配おかけして申し訳ございませんでした!!』

「おやおや、模範的な土下座ですねぇ」

『笑わないでドSラプラス!!』

「ほう、僕にお仕置きされてもいいと?まぁ大歓迎ですけれど」

『ゴメンなさい!!』


朝から我ながら完璧な土下座を鬼畜ピカチュウもとい雷士の前で披露しているあたしって何なのだろう。おまけに氷雨様にも圧かけられているし!


〈雷士、氷雨!ヒナタ様に何をさせるんだ!〉

〈言っておくけど蒼刃だって同罪だからね〉

「はっ…いつもはヒナタの無茶を止めるテメェがこの体たらくとはなぁ」

〈うぐ…!〉

『うわぁああんゴメンお願いだから蒼刃は許してあげて!!』


予想はしていたけれどやっぱりバレてしまった無断外出。無表情でご立腹な雷士を筆頭にチクチク刺すようなドS組の態度が怖いです…。


「も、もういいんじゃないかな?マスターも蒼刃も、謝ってるし…」

「そーそー、2人でコッソリってのは面白くねーけど何もなかったんだからな!」

『…』

 
よかった、どこへ行っていたかは嵐志にも気付かれてはいないみたい。あの後Nさんはどうしたのかな…ちゃんとセンターなり自宅なり暖かい所へ帰れていたらいいのだけど。


〈全く…せめて僕には言って出てってよねヒナタちゃん。蒼刃が一緒だからまだ良かったけど、1人は絶対ダメだから〉

『う、うん…ゴメンなさい』

「反省しているなら良しとしましょう。それでヒナタ君、今日はどうするのですか?」

『えーと…もう少しセッカシティでレシラムの情報を集めてみようかなと思ってるよ』

「うっし、そんなら朝メシ食って散策に行こーぜ姫さん!」

『わ…!』


あたしを立ち上がらせてそのまま手を引いて歩く嵐志。やっぱりどこか無理して笑っているように見えるのはあたしの気のせいじゃないと思う。

嫌だなぁ…嵐志にあんな貼り付けたような笑顔をさせたくないのに。でも今はまた自然と笑えるようになるのを待つしかないのかな…。

たまには外でモーニングを食べようという嵐志の提案でセンターを出て喫茶店へ向かう。うん、とりあえず美味しい物食べて頑張ろう!


〈…!ヒナタ様、近くに波導を感じます!〉

『え?』

「ん…このニオイはあのNって野郎か」

「!?」


外に出た瞬間蒼刃と紅矢の探知コンビが感じ取った気配は、Nさん…!?

嵐志があたしの手を掴んだまま勢いよく走り出す。その突然のトップスピードに必死でついていき、ようやくその足を止めたのはポケモンセンターを出てすぐ裏に回った小さな森の中だった。


『っは、嵐志…!』

「わ、悪ぃ姫さん!」

「……やぁ、」

『!』


木の葉を踏み鳴らす音と共に木陰からゆっくりと現れたのはNさん。瞬間あたしの手を握る嵐志の手に力が籠もったのが分かった。


「…っN…」

「…キミに、謝りたくてボクはここに来た」

「は…?」


顔を上げてほぼ同じ高さの嵐志を真っ直ぐ見つめるNさん。その翡翠の瞳は昨日とは違う色をしていた。


「ボクは…キミに酷いことをした。キミのことを知らないフリをして、顔向け出来ないと理由をつけ逃げたんだ。本当に、ゴメン」


帽子を取って深く嵐志に頭を下げたNさん。後から来た雷士達も急展開に少し戸惑っているみたいだけれど…多分一番混乱しているのは嵐志だと思う。


「…な、何で、」

「ヒナタのお陰だよ。彼女が昨晩ボクに気付かせてくれたんだ…ボクは自分なりに変わったと思っていたけれど、一番大事なことを忘れてしまっていた。いつもキミの存在が心の中にあった筈なのに、いつしか再会するのが怖くなっていたんだ。逃げ出したボクを許してはくれないだろうとね」


ギュッと拳を握るNさんも少しだけ震えている。きっと覚悟を決めてここまで来てくれたのだろう。


「昨晩ヒナタが教えてくれたことをずっと考えていたんだ。そしてボクはキミに謝った後、こう伝えようと決めた」

「…?」


Nさんは深く深呼吸をして、泣きそうな…けれどとても幸せそうな笑顔で言った。


「ボクを忘れないでいてくれてありがとう。キミはボクにとって、最高のトモダチだ」

「―――…っ!!」


Nさんの言葉を聞いた嵐志の空色の瞳がどんどん潤んでいくのが分かる。かく言うあたしも胸が熱くて堪らないのだけどね。


「…ははっ、当たり前だろ…!ったく何年も心配させやがってコノヤロー!!」

「うわっ!?」


涙を拭ってNさんの肩に乱暴に腕を回す嵐志。その顔はとても晴れやかで、今まで見た中で一番嬉しそうに笑っていた。


〈なるほどね…ヒナタちゃんはNを説得しに行ってたわけだ〉

「ヒナタ君らしいと言えばらしいですね」

『あ、あんまり力にはなれなかったけど…』

「姫さん!」

『へ…わぁっ!?』


嵐志に呼ばれ振り返ると思い切り肩を抱かれ引き寄せられた。Nさんも驚いていたけれどすぐに優しげに微笑む。


「ゾロア…いや、嵐志。キミがヒナタのような素晴らしいトレーナーに出会えたこと、本当に嬉しく思うよ。どうやらボクもキミも彼女に救われたらしい」

「あぁ、オレも姫さんがいたからアンタに再会出来たんだ。姫さん、Nと会わせてくれてありがとな!」

『…!う、ううん!2人が笑ってくれて、あたしも嬉しい…!』


とうとう溢れ出してしまった涙。嵐志と交わしたNさんと再会するという約束が果たせてよかった。Nさんの優しい心を守りたいという嵐志の思いを守れて、よかった…!


「キミはやっぱり不思議な子だね…だからボクはキミが好きなのだけれど」

「お!悪ぃけどなN、姫さんは譲らねーぜ?」

「ふふ、その点に関しては望む所だよ」

『な、何か子供に取り合いされるお母さんの気持ち…!』


前はNさん、後ろは嵐志に抱き締められて押し潰されそうになっているあたし。あれ、これ命の危機じゃない?


「あーもう姫さん大好きだ!」

「ボクもヒナタが好きだよ!」

『嬉しいけど苦しいです!!』

〈何やってるんだか…〉

「と、とりあえずマスターを助けないと、ね?」


数分後あたしは無事蒼刃と疾風に救出されました。その際にまぁ色々と一悶着あったのはまた別の話。


解放されても荒い息を繰り返すあたしを見てNさんと嵐志は笑っていて、本当は笑い事じゃない!って怒る所なのだけど…あんまりにも2人が嬉しそうだったから何も言えなかった。

今回一番迷惑をかけたであろう蒼刃にもう一度お礼を告げる。すると蒼刃はまたとんでもないと笑ってくれた。


「ヒナタ、ボクのトモダチの傍にいてくれてありがとう!」


そう言って笑うNさんと嵐志はまるで子供みたい。一瞬だけゾロアだった嵐志と小さなNさんが笑い合っている姿が見えたような気がして、あたしも思わず声を出して笑ってしまったんだ。



to be continue…



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