long | ナノ







3

「ふう…助かったよ、ありがとう。そしてご馳走様」

『い、いえ…よかったです怪我もなくて』


倒れていた男性が最後のサンドイッチを平らげ息を吐く。

先ほど倒れていた彼に急いで駆け寄り声をかけたら「た、食べ物…っ」と言ってまた力尽きた為、あたしは大慌てでバッグに入れておいたタッパーからサンドイッチを取り出して差し出した。

すると彼は奪い取る勢いでバクバクと食べ始め、やっと今お腹が満たされたらしい。斉…あたし達の為に作ってくれたサンドイッチはこの人の命を救ったよ、良かったね!


『それにしても…どうしてこんな所で空腹で倒れていたんですか?』

「それがね、どうやらここに辿り着く途中食べ物の入った袋をどこかに落としてきてしまったみたいで。まぁ仕方ないかと耐えてみたのだけどやっぱり1週間水だけで過ごすのは無理があったね!」

『爽やかな笑顔で言うことじゃないと思いますけど!?』


な、何か変な人…よく見たら恰好もあんまり見ない服だし。


『というか…耐えたりしないで街に買いに行けばよかったんじゃないですか?』

「はは、そうなんだけど…道中財布も落としてしまったようなんだ」

『おっちょこちょいですねお兄さん!!』


あたしもたまにおっちょこちょいって言われたりするけれど、さすがに財布は落としたことないよ!?

この人にこやかに笑っているけれど本当に大丈夫なのかな…。


〈あの…すみません、ゲン様を助けて頂いてありがとうございました〉

『!』


男性のベルトに装着されていたボールからルカリオが出てきて、申し訳なさそうにあたしにお礼の言葉を述べた。この子も強そうな雰囲気だなぁ…蒼刃といいルカリオという種族は皆そうなのかも。


『ううん、お礼なんていいよ。お兄さ…ゲンさんが無事でよかったね!』

〈…!貴女、私の言葉が…?〉

『うん、分かるよー』


ルカリオと会話していることに気付いたらしいお兄さんもといゲンさんも目を丸くして驚いている。実は最近のあたしはこの能力を大勢の人の前以外では隠そうとしなくなった。

理由はまぁ…元々隠すものでもないと思っているし、1人や2人くらいの前なら別にいいよねと割り切ったからなのだけど。


「へぇ…ポケモンと会話が出来る子とは初めて会ったよ、面白いね君」

『そ、そうですか?』


ゲンさんはニコリと笑い、立ち上がって埃を払う。そしてあたしに手を差し伸べてこう言った。


「改めまして、私はゲン。君の名前を教えてくれないか?」


…コスプレのような服装と相まって、その美麗な微笑みが王子様みたいだなんて思ったのは気のせいだと思いたい。



−−−−−−−−−



「へぇ、ヒナタちゃんはセッカシティに行くのか」

『はい、目的があるんです。辿り着く為にこのネジ山を越えなきゃならなくて…』


聞く所によるとゲンさんはシンオウ地方からやって来たらしい。ずっと鋼鉄島という島に篭もっていたみたいなのだけど、たまには外の世界で修行しようと思い立って遠く離れたこのネジ山に辿り着いたとか。

シンオウ地方かぁ…確かシロナさんがチャンピオンを務めている地方だよね。うん、いつか行ってみたい。


「安心したまえヒナタちゃん、お礼に私が必ず出口まで送り届けてあげるよ。もう山の地理はバッチリだから心配はないさ」

『は、はい…(申し訳ないけど不安かも…)』

〈あ、あのっヒナタさん!確かにゲン様は生活能力は皆無ですし山篭もりの修行と銘打っているだけのニー…引き篭もりですが腕は確かなので信じて下さい!あ、勿論ちゃんと修行もしてますよ!〉

『うん、色々ツッコミたい所はあるけどとりあえず今何か言っちゃいけないこと言いかけたよねルカリオくん』

〈ていうか何1つフォローになってないよね〉


それにしてもネジ山って思っていたより複雑な構造をしているんだなぁ…。あちこちに通路があって迷っちゃいそう。

ゲンさんについて歩いていると、突然彼が足を止めた。え、何々?


「…ルカリオ、感じるか?」

〈はい、ゲン様〉

「そうか…やはりね」


…ルカリオくんの鳴き声しか聞こえていない筈なのに、確かに今ゲンさんはその返事を受け取った。

ハル兄ちゃんもそうだけれど、ポケモンの言葉が分からなくても意思疎通が出来る普通のトレーナーの方がずっと凄いと思う。昔から耳に入るのはポケモン達のれっきとした言葉で、鳴き声らしい鳴き声というものを聞いたことがないあたしからしたら少しだけ羨ましい。

…あ、そういえば彼らは何を感じ取っているのだろう?


「ヒナタちゃん、地中から何かが近付いてくる。気をつけて!」

『え…、』


ゲンさんがそう言った瞬間、地響きが鳴り地面が揺れ始める。バランスを崩しそうになった所をルカリオくんが支えてくれて助かった。何々ルカリオってみんな紳士なの?

 
〈…来るよ、ヒナタちゃん〉

『!』


雷士もあたしの肩の上で身構えている。そして地響きが大きくなり、あたし達のいる場所のあちこちで地中が盛り上がった。


「…これはこれは、手厚い歓迎かな?」


いやいやゲンさん、そんな優しいものじゃないと思いますよ。


地中から一斉に飛び出して、あたし達を取り囲むように現れたのは…あからさまに敵意を露わにするポケモン達だったから。



to be continue…



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