long | ナノ







3

「お待たせしました、リオルは元気になりましたよ!」

『ありがとうございますジョーイさん!』


あぁ、何て頼りになるのだろう。幸い傷の箇所は多かったけれどどれも大きな怪我では無かったようで、夜になる頃には治療が終わった。


「あの子…きっと野生ながらに沢山バトルしてきたのね。体付きが全然違ったもの」

『みたいですね!あの、リオルくんに会うことって出来ますか?』

「えぇ、勿論。一番奥の部屋にいるわよ」


ジョーイさんに一礼してリオルくんの元へと向かう。早く彼にお礼を言わなくちゃ!


言われた通り廊下の一番奥の部屋に入ると、ベッドの上に座ってジョーイさんから貰ったであろうオレンの実を食べているリオルくんがいた。


〈!貴女は…〉


初めて聞いた時も思ったけれど…何と言うか、良い声だ。耳障りの良い低温で沁み渡る様に心に響く。


『やっほーリオルくん。気分はどう?』

〈はい、随分良くなりました。…俺の声が聞こえれば良いのですが〉


うん、そうだよね。そう思うよね普通は。


『だいじょーぶ!ちゃんと聞こえているよ、君の声』

〈え…?〉

『何でかはよく分からないけれど、あたしはポケモンと会話する事が出来るの。だから君の声も聞こえてる。元気になって本当に良かった!』


大きな目を更に見開いて驚いているリオルくん。可愛いなぁ…雷士もたまにはこれくらいパッチリと目を開けてくれないだろうか。だってあの子ご飯の時もバトルの時さえも眠たそうだからね。


〈それは…凄いですね。貴女の様な人間には初めて出会いました〉


持っていたオレンの実をサイドテーブルに置き、リオルくんはあたしの方へと向き直し正座した。え、何々どういう事?


〈俺を助けてくれてありがとうございました。貴女がいなければ俺はあのまま野垂れ死んでいたかもしれません…。サンギ牧場の番人とまで呼ばれていながら無様な失態です〉


あたしにお礼を言って深々と頭を下げた。ていうか、ていうか番人って!え!?超カッコイイんですけど!いやいやそれよりもこの三つ指ついている子をどうにかしないとね!


『ちょ、やめてやめて!あたし何もしてないし!むしろお礼言うのはこっちだよ!』

〈…?何故、ですか?〉


土下座の域に達しているお辞儀を慌てて制する。リオルくんはキョトンとしているけれど、本当にお礼を言うべきはこちらなのだ。


『だってハーデリアや牧場を守ったのは全部君の力だもん。あのプラズマ団を追い払ったのはリオルくんだよ。あたしと雷士はほぼ見てただけ!ありがとう、牧場のポケモン達が平和に暮らせているのは君のおかげだよ』


ぺこり、あたしもリオルくんへ頭を下げる。でも頭上でまたもやうたた寝をしていた雷士がずり落ちそうになった為ほんの数秒の間だったけど…。


〈…不思議な方ですね。貴女の波動は心地良い…とても美しく、優しい波動だ〉


波動…そういえばリオルは波紋ポケモンと呼ばれているんだっけ。何だか凄く恥ずかしい事を言われた気がする。あたしを良く見過ぎだよ絶対…。

というかこの子は絶対イケメンだ。擬人化出来るのかは分からないけれど出来るとしたら絶対イケメンだ、うん。

そんな事を考えていたらリオルくんに指先をそっと握られた。少しだけ熱を持っている手はふにふにしていて気持ち良い。


〈…お願いします、俺を連れて行ってくれませんか?きっと貴女のお役に立ちます!〉


そう懇願する彼は恭しく膝をつく騎士の様にも見えた。え、ていうか…!


『ほ、本当に!?本当に良いの!?』

〈勿論です、今度は俺が貴女を守ります。それに俺自身牧場の外へ出てもっと自分を鍛えたいと思っていましたから。…ダメ、でしょうか?〉

『やめて!!そんなシュン、て音がつきそうな顔しないでぇええ!!全然OKだから!むしろこっちが地面におでこ擦り付けてお願いしたいくらいだから!』

〈そうですか…!ありがとうございます、嬉しいです。では…貴女のお名前を聞いてもいいですか?〉

『うん!あたしはヒナタ、よろしくね!』

〈ヒナタ…ヒナタ様ですね。こちらこそよろしくお願いします!〉


嬉しそうに柔らかく微笑むリオルくんにあたしも嬉しくなる。あ、リオルくんじゃダメだね。せっかく仲間になったんだもん!名前は何が良いかなぁ…。


〈…ヒナタ様?〉


考え込むあたしを不思議そうに見上げる彼を見てピンと来た。そうだ、これが良い。


『…蒼刃、蒼刃にしよう!』

〈そうは…?〉

『君の名前だよ!折れない刃を持った蒼い勇者。君にピッタリだと思うんだけど…変かな?』

〈俺の、名前…いいえ、とんでもありませんヒナタ様!こんなに嬉しい事は初めてです…!〉

『お、気に入ってくれた?あは、改めてこれからよろしくね蒼刃!』


こうして新しい仲間、リオルの蒼刃が加わることとなった。早速紹介しようと完全に寝こけてる雷士を揺さぶり起こしたら、〈うるさいよヒナタちゃん僕眠い〉と言って尻尾で殴られた。


…え、何この仕打ち。


to be continue…


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