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「大したものが出せなくて済まないな」
『いいえ、ありがとうございます!』
文句なんてとんでもない、ジムリーダーさんにお茶を淹れてもらっただけでも恐れ多いよね…。それにこのお茶凄く良い匂いがする。きっと高い茶葉使っているんじゃないかな?
シャガさんのお家は必要最低限の家具しかなくて、とてもスッキリしていた。あ、でも…玄関にあったドラゴンの置物はちょっと…うん、色んな意味で衝撃的だった。
「さて…それで、伝説のドラゴンポケモン達のことについてだったな」
『はい、さっきもお話しましたけど…あたしは考古学者の兄の手伝いをする為にイッシュを周っているんです。兄の研究テーマはイッシュ地方の神話や伝説を調べて歴史の謎を紐解くことなんですけど、それを追求する上でレシラム達のことは外せなくて、シャガさんなら詳しく教えてくれるんじゃないかとここまで来ました』
「ふむ…なるほどな」
小さく頷いたシャガさんは、あたしを見直して微かに笑った。
『?』
「ふ…いや、済まない。君を見ていると2年前のことを思い出すのだ。今の君と同じように強く聡明な子供が私を訪ねてきた。そしてその子はこのイッシュ地方をプラズマ団から救ったのだよ」
プラズマ団から…イッシュを救った、そんな人が2年前にいたんだ…!凄いなぁ、きっと物凄く強い人なんだろうな…。
「確かその子はチャンピオンにも勝利したと聞くが…今はどうしているのだろうか。まぁ達者で暮らしているとは思うが…」
『ちゃ、チャンピオン…!』
チャンピオンより強いとか最強すぎでしょ!あたしじゃ全然適わないだろうな…いや皆のことは信用しているけどね。
「ふむ…そうだな。レシラムは真実の世界、ゼクロムは理想の世界を創る者を英雄と認めその強大な力を貸すと言われている。2年前…それぞれ英雄と認められたトレーナー同士がレシラムとゼクロムを付き従え決戦の火蓋を切った。その結果勝利したのは先ほど話した子の方でな、無事世界征服を企んでいたプラズマ団を阻止することが出来たのだ」
『へぇ…!』
英雄かぁ…レシラム達は人のどんな所を見て認めるのだろう。やっぱり心なのかな、優しくて強くて…勇気のある人とか?
「…君の人柄を信じて話すが…君は、キュレムというポケモンを知っているか?」
『!…少しだけ兄から聞きました。もう1匹の伝説のドラゴンポケモンで、辺り一面凍らせるくらいの力を持っているとか…』
「そうか…そうだな、私もそのくらいの知識しかないのだが…。あともう1つ、ソウリュウにはこんな話が残っているのだ。…キュレムとはレシラム、ゼクロムから生まれ落ちた存在。故に両者の力を併せ持つ最強のドラゴンポケモンだ、とな」
『え…!?う、生まれ落ちたって…どういう意味ですか?』
「残念ながらこれ以上の記述は残っていない、私にも確かなことは言えんのだ」
『そ、そうなんですか…』
キュレムはレシラムとゼクロムから生まれ落ちた…一体どういうことなのだろう。直訳すると、レシラムとゼクロムの子供ってこと?
「…そういえば、数日前レシラムと思しきポケモンがセッカシティに飛んで行くのを見たと聞いたな」
『れ、レシラムが!?』
「うむ…勿論見間違いという可能性もあるが…セッカシティにはリュウラセンの塔という場所があってな、そこはレシラム達と関係の深い建造物であると言われている。もし本当に目撃されたのがレシラムであれば…リュウラセンの塔へ向かったのかもしれん」
リュウラセンの塔…そこへ行けば、もしかしたらレシラムに会えるかもしれない!
『セッカシティですね、分かりました!ありがとうございますシャガさん!』
残っていたお茶を飲み干してあたしは立ち上がった。こうしちゃいられない、ハル兄ちゃんに伝えてからあたしはセッカシティへ行こう!
「む、もう行くのか?」
『はい!一度ヒオウギへ戻りますけど…』
「そうか…ならば最後に1つだけ」
引いた椅子を戻し、シャガさんも同様に立ち上がる。そしてあたしを真っ直ぐ見つめ言葉を紡いだ。
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