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『へー…ここがソウリュウシティかぁ』
ビレッジブリッジ付近で正直かなり時間を取ってしまったけれど、何とか辿り着いた目的の地。
そこはヒウンやライモン程ではないけどそれなりに大きな街で、道行く人々にも活気が見て取れた。
『んーと…シャガさんは確かジムリーダーなんだよね、ジムに行けば会えるのかな…』
そういえば意気込んで来たものの、何のアポもない見ず知らずのあたしの話を聞いてくれるのだろうか。うわぁあどうしよう急に不安になってきた!
…でもここで立ち往生するわけにもいかない、よね。こうなったら当たって砕け…いやいや砕けちゃいけないけれど、とりあえず話したいって意思は伝えないと!
〈…ヒナタちゃん、ここ〉
『え?』
雷士があたしの髪を引っ張り何かを指し示す。その方向にあったのは…
『…シャガの、家?』
え、ここって言うまでもなく…シャガさんの自宅?
「あら、あなた達市長さんのお宅にご用?」
『やっぱり!っていうか市長!?』
「え、えぇ…シャガさんはソウリュウのジムリーダーであると同時に市長も務めていらっしゃるのよ」
通りすがりの優しそうなお婆さんが丁寧に教えてくれた事実。それは何とも予想外なことだった。
「この時間はいつもジムにいらっしゃるようだから行ってみてはどうかしら?お忙しいとすぐには会えないかもしれないけれど…」
『は、はい!ご丁寧にありがとうございます!』
じゃあね、と優しく微笑んでお婆さんは去っていった。やった、これは良い情報を手に入れたぞ!
〈どうするの?ジムにいるってことはジム戦中かもしれないけどね〉
『あーそうだよね…まぁとりあえず覗くだけ覗いてみようか』
ジム戦や急ぎの仕事中であれば邪魔をする訳にはいかない。様子を見て、話が出来そうになかったらまた出直そう。
『えっと…あ、ここだよジム!入ってみよう』
何やら刺々しいというか厳かというか、とにかく色々な意味で立派な入口から中に入ると果てしなく暗い空間がそこには広がっていた。
〈うわ…趣味悪〉
『こらこらそういうこと言わないの!』
〈大丈夫だよ僕の言葉は聞こえてないし〉
…まぁ確かにそうかもしれないけれど。でも失礼でしょ!
〈それにヒナタちゃんだって趣味悪いって思うでしょ?〉
『…い、いやいやいや、カッコ良いと思うけどなぁ!ほらこのドラゴンのオブジェとか秀逸じゃない?』
〈あんまり前のめりになると下に落ちるよ。ほら、奈落〉
『お願いもっと慌てて雷士くん!!』
ほら、奈落。じゃないよこの鬼畜ネズミめ!!そういうことはもう少し早く言ってよ死ぬ所だったし!
長い道のようなドラゴンのオブジェに乗り、ほらこの重厚感すごーい!とか言おうとしていたあたしがバカだった。
辺りが仄暗い為足場の境目が見えず、どうやらあたしは危うく文字通り奈落の底へ真っ逆さまになりかけていたらしい。
『何このジム…挑戦者の度胸試しでもしているのかな』
「その通りだ!」
『ひぎゃぁあああ!?』
〈うるさいよヒナタちゃん〉
だ、だってだって!いきなり暗闇から声をかけられたらビックリするでしょ!?
思わず腰を抜かしかけたあたしを見て声の主は苦笑し、その姿を現した。
「すまんすまん、驚かせるつもりはなかった。許してくれ」
『!』
革靴の音を鳴らし、暗闇の中から姿を見せたのは実に逞しい体格のおじ様だった。何か体つきが斉に少し似ている…あれだ、筋骨隆々ってやつだ!
ドラゴンの牙のような髭をたくわえ、鋭い眼力がその逞しさに更に磨きをかけている。この尋常じゃないプレッシャーは…もしや、
『あ、あの…ひょっとしてシャガさんですか?』
「如何にも。私がこのソウリュウシティのジムリーダー、シャガだ」
…い、いきなり会えたぁあああ!!
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