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あたしの気持ち、伝わっただろうか。きっとこのラプラスなら分かってくれる、筈。
〈…僕は…何があっても人間を許すことは出来ません。きっとこれからも憎み続ける〉
あの日の光景は僕を蝕み尽くすかもしれない。でも、それだけ悲しみは深い。
〈…それでも、僕を救いたいとでも言うのですか〉
『勿論』
そんなの当たり前。だってあなたの目は、こんなにも救いを求めている。
ラプラスは閉じていた目をゆっくり開け、あたしを真っ直ぐ見据えてきた。
〈…だったら、僕を止めてみなさい。君の語る理想が本物だと、僕に証明して下さい〉
『分かった。ありがとうラプラス、バトルしてくれるんだね』
〈…〉
良かった、少しは分かってくれたみたい。彼はチャンスをくれた…あたしはそれに応えてみせる!
『雷士、お願い出来る?』
〈…いちいち聞かなくても、良いに決まってるでしょ〉
再び雷士が一歩前に出てあたしは下がる。ラプラスもその大きな体を陸へと預けた。
〈…最初にも言いましたが、決して容赦はしませんよ〉
『分かってる。こっちだって思いっきり行くから!ね、雷士?』
〈当然。ヒナタちゃんに怪我させたんだから息の根止める勢いでいくよ〉
『あれ、それはやり過ぎな気がするよ雷士くん』
…と、とにかく、このバトルは負けられない。彼の為にも絶対勝つ!
〈では、始めますよ〉
『!』
あれは…さっきも繰り出したこおりのつぶて。だったらこっちも先手必勝!
『雷士!でんこうせっか!』
雷士が駆け出すと同時に無数の礫が襲いかかる。連続ででんこうせっかを繰り返すことで何とか避けながら距離を詰め、あと一歩で攻撃が当たるという時。
〈甘い〉
〈…っ!!〉
『雷士!』
ラプラスが一瞬で体を捻り、巨大な水の尾が雷士を叩き付けた。あれは…アクアテール…!?あんな近距離で繰り出せるなんて…。
〈く…中々やるね〉
〈おやおや、その小さな体にはキツかったですか?〉
挑発に乗るつもりなのか、雷士はゆっくりと立ち上がる。意外と負けず嫌いなとこあるしね…。
〈ヒナタちゃん、ボーッとしてる暇ないよ〉
『!う、うん!』
大丈夫、雷士なら負けない。早くも次の攻撃を仕掛けようとしているラプラスにあたし達も応戦する。
『雷士!10まんボルト!』
〈!〉
ふっふっふ、雷士の十八番10まんボルト!相性的にも抜群!
広範囲の電撃に反応の遅れたラプラスへ見事に命中。さぁ、どう?
〈ぐ…っ〉
やっぱりだいぶ効いているみたい…これならいける!
『畳み掛けるよ雷士!アイアンテール!』
尻尾を鋼と化してラプラスへと駆け出す。けれどその時、ラプラスが素早くれいとうビームを繰り出した。
〈―――っうわ…!〉
『雷士!?』
カチカチに凍った地面に滑って雷士が転んでしまった。うわわ、地味に痛そう…!
「…ぷっ、」
〈よし嵐志は後で電撃決定〉
「えぇええ何でオレが笑ったって分かんだよ!?」
『ご愁傷様嵐志!』
〈…全く、緊張感のない方達です〉
『!雷士避けて!』
再び繰り出されたれいとうビームを間一髪で跳び避け、クルリと一回転する。
『かげぶんしん!』
〈!?〉
無数のかげぶんしんがラプラスを取り囲む。これは以前カミツレさんとのバトルで魅せられた戦法だ。パクってゴメンなさい!
『いっけぇ!全方位10まんボルト!』
〈―――っ!!〉
もはや雷レベルなんじゃないだろうか。辺り一面が雷士の電撃で白く光る。雷光が止んだ後、ラプラスは小さく呻いてその場に倒れ込んだ。
『よし…!』
今だ!とばかりにバッグからモンスターボールを取り出しラプラスへ投げる。赤い光に包まれたラプラスを収めたボールは数回揺れ、そして動かなくなった。
『…っやったぁああ!!ラプラスゲーット!!』
〈終わったね…。という訳でこっち来な嵐志〉
「マジからいとん!!」
「ま、マスター!良かったね!」
「ふん…相変わらず甘ぇヤツだぜ」
『あは、いいのいいの。甘いのがあたし!』
…そういえば、まともにバトルしてゲットした子は初めてだ。
「…ヒナタ様、先ほどのお話ですが…」
『!お母さんとお父さんのこと?ゴメンね…隠すつもりはなかったけど、みんなに言ってなかったね』
途端に皆が表情を曇らせる。…そんな顔、させたかったわけじゃないんだけどな。
「…俺は、これからもずっとヒナタ様のお傍にいます。貴女をお1人にはしません」
『…うん、ありがとう蒼刃。その気持ちだけで充分だよ!』
疾風と嵐志は満面の笑みで、雷士と紅矢は少しだけ口角を上げて笑っている。…あたしは幸せだよ、皆に会えて。
そうだ、まずはラプラスをポケモンセンターに連れて行かなきゃ。そして名前を付けよう。あ、あとアオイさんにも謝らないと…!
『…あなたにも、幸せになってもらわないとね』
あたしはもう一度ラプラスの入ったボールをギュッと握り締め、橋の上へと駆け戻った。
to be continue…
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