long | ナノ







3

「いやぁああん可愛い!!何て可愛い美少年なの!?子犬系?小動物系?とにかく母性本能をくすぐること間違いなしね!」

『…あは、は…』


拝啓、ハル兄ちゃん。

あたしは今日、人生初の男装に挑戦しました。…何かもう、渇いた笑いしか出来ないけれど。

いつぞやの時のようにあたしは大きな鏡の前に立たされていた。サイズをあたし用に合わせた燕尾服を着て、肩下まである髪を隠す為に男性物の黒髪のカツラを被っている状態。

…でも、何より驚いているのは…。



「ど、どうかなマスター?ボクなりに、一生懸命頑張ったんだけど…」

『うん…ありがとうね疾風、あたしビックリだよ』

「最高よ疾風君!一体どこでこんな技術覚えたの!?」


本当にね、本当あたしもそれが知りたい。


「え、えっと…テレビで見て、人の顔を変えるなんて凄いなぁと思って…。初めてだから記憶を辿ってやってみたけど、上手くいってよかった」


あぁ、なるほどね…そういうこと。

あたしはいくら変装したとしても女なわけで、そこは変えようがない。だから少しでも男に見えるように男装メイクをすることになったのだけど…まさかその役を疾風がかって出るとは!

見よう見まねとはいえ、素人のあたしから見るとかなり上手だと思う。完璧…かどうかは分からないけれど、これなら充分中性的な少年として通用するだろう。


「うわーてっちゃんスゲーな!オレらは姫さんだって分かるけどそれでも今は男に見える!」

「…この姿なら手加減しなくていいか」

「そうだね…耐久性は上がるかもね」

『え、何の?ドSコンビがあたしにふるう暴力の?』

「…ど、どのようなお姿になっても俺はヒナタ様をお守りします!」

『本気にしなくていいけどありがとう蒼刃!あと燕尾服超似合ってるよ!』


…ていうか、皆似合ってるから怖い。紅矢だってあの仏頂面やめたらもっとカッコ良いと思うのにな。


「さぁさぁ、そろそろ始めるわよ!実は皆が準備してる間にお客さん呼んどいたのよー!」

『え?呼ぶって…?』


お客さんってそう簡単に呼べるものなのだろうか。アオイさんはそんなあたしの疑問を察したのか、胸ポケットからライブキャスターを取り出した。


「うふふ、私若い頃結構ヤンチャでね〜。その時に手に入れた人脈使って口コミしてもらったの!あ、勿論女の子だけど!もう皆行く行くって張り切ってくれてね、すぐ着くみたいよ!」


えぇえええそれならあたし達要らないんじゃないですか!?


と、そんな悲痛な叫びが聞き入れられる訳もなく。軽快なベルがお客さんの登場を知らせ、アオイさんは素早くお出迎えに行ってしまった。


『…まぁ、ここまで来たら覚悟決めるしかないよね…。せっかくだし、頑張ろう皆!特に紅矢!』

「何で俺なんだ」

『だって横暴キングだから!くれぐれもお客さんに暴言暴力かまさないこと!もしそんなことしたら今日のオヤツは抜きだからね!?』

「ちっ…分かってるっつうの」

「ていうか今日だけなんだ」


…だって紅矢の場合仕返しが怖いし。




「さぁさ、お席にどーぞ!」

「はーい!」


う…本当に女の子ばっかりだ。どうかバレませんように…!


「あ、すみません!注文いいですか?」

『は、はい!』


お客さんに呼ばれテーブルへと走る。な、何か緊張する…でも頑張らないと!


「ミルクティーと、チーズケーキお願いしまーす」

『はい、かしこまりました!』


出来るだけ低い声を意識しつつ精一杯の笑顔で応える。すると女の子は何故か顔を赤くして視線を逸らしてしまった。…え、ダメだったのかなあたし。

まぁ気を取り直し、あたしはオーダーをアオイさんに伝えに戻る。その時チラリと皆の様子を観察してみた。


…うんうん、とりあえず上手くやってくれているみたい。蒼刃は元々真面目だし、疾風も一生懸命な所がポイント高い。雷士は…まぁ一応やる時はやってくれるし。嵐志は若干ノリがおかしいけどね。ホストクラブかここは!さて一番問題の紅矢の場合は…あれ、何か女の子皆キャーキャー言ってる。


「うふふ、紅矢君みたいな子って割と人気あるのよ?つっけんどんな態度が逆にカッコ良いってね!」

『申し訳ないけどあたしには理解できない感情です…』


…まぁ何はともあれ無事に終わりそうでよかった!


その後も順調にこなしていき、お客さんの入りも落ち着いた所であたし達は休憩をもらうことにした。




『はぁー疲れた…男の子のフリって慣れないし』

「意外といっぱい来たよな!もーオレ揉みくちゃにされて大変だったぜ」

「嵐志みたいな人を、タラシって言うんだよね?」

「そうだ、だから近寄るなよ疾風」

「…でもさ、ラプラスをどうにかしない限りまたお客さん来なくなるんじゃないの」


…確かに。その辺はアオイさんどう思っているのだろう?


『そもそもラプラスはどうして人を襲うんだろうね』

「…ラプラスってのは昔から高く売れるらしいからな。数が少ない上に温厚な奴らが多くてよく人間にとっ捕まるんだとよ」

『え…!?』


紅矢の言葉に愕然とする。…そうか、それなら人間嫌いになるのも無理はない。


『…アオイさん、あたしちょっと外の空気吸ってきます』

「はーい、気をつけてね!」



−−−−−−−−−



『…本当に、ここにいるのかな』


あたしは橋下にある例の川へと来ていた。見た所変わった様子はない、静かな川。

土手に座り込みジッと流れを見つめ、先ほどの紅矢の言葉を思い出す。


(ここにいるっていうラプラスも…仲間を奪われたのかな)


もしそうだとしても…人を無差別に襲うのは許してはいけないと思う。でも…、




〈…人間の、ニオイ〉

『…え?』


それは、突然だった。

水中からみずでっぽうと思しき激しい攻撃が出現した。咄嗟に身をよじって直撃は避けられたけれど、その際に砕かれた岩の欠片があたしの手の甲に当たり少し血が出てしまっている。


『つ…っな、何!?』


痛む手を押さえ立ち上がる。これは…まさか、


そしてあたしの声に反応するかのように、攻撃した主は大きく波立たせその正体を現した。



to be continue…



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