long | ナノ







2

『それで…あたしは何をすればいいんですか?』

「うふふ、よくぞ聞いてくれたわ!ただの喫茶店じゃ芸がないでしょう?だからね、コアな客を集める為にも流行を取り入れるのよ!」

『は、流行?』


途端にウキウキし始めるアオイさん。彼の目線はあたしから頭上の雷士へと移った。


「ねぇヒナタちゃん、そのピカチュウ…男の子よね?」

『え?は、はい』

「まぁ!じゃあ他にもポケモン持ってる?」

『え、えっと…あと4匹いますけど…ちなみに全員男の子です』

「あらあら!勿論擬人化出来るわよね!?」

『で、出来ます…けど?』


するとキラキラ笑顔を輝かせ、今すぐ皆出してちょうだい!と頼まれた。い、一体何を考えているのだろう?

未だアオイさんの思惑を掴めないまま、あたしは他の皆をボールから出して擬人化してもらった。



「ひーめさん!今日も可愛いぜ!」

『わぁ!?』

「嵐志!ヒナタ様に抱きつくな!!」

「匂う…甘ぇニオイがしやがる」

「こ、紅矢…嬉しそうだね」

「ふぁあ…眠い」


またもや一方的な喧嘩を始める蒼刃と嵐志を止めつつ、アオイさんの反応を見る。すると彼はしばらく呆然と皆を見つめた後、盛大に鼻血を吹き出した。


…いやいや大変じゃん!!


「何この人、ヒナタちゃんと同類?」

『ちょっとあたしが変態みたいな言い方やめてくれないかな!?』

「姫さん姫さん、それ多分失礼」




「…ふふ…キた、キたわ…!」

『え?』


ギュッと拳をつくり、プルプル震えるアオイさん。何事かと思えば勢いよく顔を上げて、一番近くにいた蒼刃の顔を掴んで引き寄せた。


「渋い藍色の短髪…!凛々しい顔つきと相まって硬派で男らしいわ!イイ!」

「な、何だお前は!?」


あたし達が呆然としているにも関わらずアオイさんのマシンガントークは続く。


「あらアナタもキリッとした顔ね!でもどちらかと言えば不良っぽい…強引俺様系彼!イイわ!」

「近付くな気持ち悪ぃ!」


「そしてアナタは正反対の美少年!髪サラサラねぇ〜。儚げだけど実は狼の顔を隠し持つとか…萌えるわ!」

「え、え、えっと…?」


「アナタはバリバリの今風男子ね!チャラ男系かしら?でも遊んでそうで本命には一途…美味しい!」

「ひ、姫さんヘルプ!」


「最後にピカチュウ君!アナタも毛色の違う美少年ねぇ〜。いつもは可愛いタレ目が彼女のピンチには吊り上がるとか…最高!」

「…10まんボルトしていいかな」


口を挟めないでいたあたしは雷士の言葉にハッとする。だ、ダメ!10まんボルトはダメだよ雷士!

何とか雷士をなだめ危機をやり過ごした。一方でアオイさんは実に楽しそうにキッチンの奥の部屋へと行き、何やら大きな衣装ケースを持って戻ってきた。


「うふふ、実はねヒナタちゃん!私がやろうとしてるのはね…執事喫茶なのよ!」

『し、執事…喫茶?』


聞き慣れない言葉に首を傾げると、アオイさんはあたしの肩に手をかけ熱く語り始めた。


「いい?ヒナタちゃん、執事…それは乙女のロマン!良い男に囲まれ甲斐甲斐しくお世話されたり、いつもはよそよそしい彼がふとした瞬間に男の顔を見せたり…とにかく萌えるものなのよ!!」

『あ、アオイさん近いです!!』


何だろう、この人何となくアクロマさんと同じニオイがする!!熱くなると周りが見えなくなる感じとか…!


「っヒナタ様に近寄るな!」

「あら」

『そ、蒼刃?』


アオイさんの腕を掴みあたしから引き離したのは蒼刃。あたしが困っていると大概一番最初に蒼刃が助けてくれるんだよね…うぅ、何て頼りになる子だ!


「うふふ、ゴメンなさいねルカリオく…あぁ、蒼刃君だったわね」


クスクス笑う彼は続いて先ほどの衣装ケースからスーツのような服を取り出した。それを目の前でバサッと広げる。


「これは燕尾服、執事の正装よ!それでお願いなんだけど…雷士君達にこの衣装を着て接客をしてほしいの!」

『…え、雷士達に!?』

「これだけイケメン揃いなら間違いなく流行るわよ〜!ね、ビレッジブリッジ再興の為にもお願い!」

『で、でもあたし達旅してますから今日明日くらいしか出来ませんよ!?』

「だーいじょーぶ、足掛かりにさえなればいいから!その後は私が何とかするわ、ヒナタちゃんにそこまで迷惑かけられないしね」


う…そういうことなら…まぁ、大丈夫…かな?アオイさん本気みたいだし…。


『…分かりました。少ししか力になれないとは思いますけど…明日までという約束で、お手伝いさせてもらいます!』

「ありがとうヒナタちゃん!アナタならそう言ってくれると思ったわ〜!」



「…はぁ、ヒナタちゃんって本当…」

「バカだな。噛み付いてやりてぇ」

「えーでも結構カッコ良くね?姫さん意外と靡いてくれるかもしんねーよ!」

「な、何!?それは本当か!?」

「そ、蒼刃…マスター関わると、目の色変わるよね」



『じゃああたしは裏方に回りますね!料理とかならお手伝い出来ますし…』

「あら、アナタも接客するのよ?」

『…へ?で、でも…執事喫茶なんですよね?』


ニッコリ、アオイさんの笑顔は綺麗だけど言ってる意味がよく分からない。思いきりハテナマークを飛ばすあたしに彼はこう続けた。


「そう、執事喫茶よ。だからヒナタちゃんには男装して接客してもらうの!」



…意味を理解した途端、あたしは目の前が真っ白になった気がした。




prev | next

top

×