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〈…人間、か〉
深く、心に入り込む低い声。鋭い目つきではあるけれど憎しみや怒りは感じない…と思う。
特に人間が嫌いというわけではないのかもしれない。勿論あたしの勝手な想像だけどね。
見た目や声からしてオス、でいいのだろうか。ともかく彼からは何か他のポケモンとは別のオーラを感じる…。それに気付いたのか、雷士もモソモソと顔を上げた。
〈…イッシュに来る前ハルマとこの地方のポケモンを勉強したでしょ?その時の図鑑でも見たことないヤツだね。新種のポケモンだったりして〉
『た、確かに見たことはないけど…そんな簡単に新種が見つかるとも思えないんだけどな』
〈…ほう、お前はポケモンの言葉が分かるのか〉
『あ、はい一応…』
何とも言えない威圧を感じさせる彼に一言返せば、少しだけ口元に笑みを浮かべた。
〈面白い、そのような人間と出会ったのは初めてだ。ただの噂だとばかり思っていたが…〉
『噂?』
〈うむ、2年程前か…。ポケモンと会話をする青年がいると風の噂で聞いた〉
…それってもしかしなくてもNさんのことかな。やっぱりポケモンと話せるのって珍しいことなんだ…。
『ねぇ、あなたは何て言うポケモン?あたしあなたのこと初めて見るの』
〈…私はコバルオン、お前がそう言うのも無理はない。人間の前に姿を現すのは稀だからな〉
『え…そうなの?も、もしかして人間が嫌い…?』
〈いや、そういうわけではない〉
よかった、やっぱり嫌いじゃなかった!でもそれならどうして姿を見せないのだろう?
…あ、そっか!きっと珍しいポケモンなんだ。それであまりその辺りを歩くと目立ってしまうからとかそんな感じなのかな。
〈私は伝説のポケモンなどと呼ばれていてな…人間にこの姿を晒すと大騒ぎになってしまうのだ〉
おぉっとまさかの伝説発言きた――っ!!
え、というかいいのそんなサラッと言っちゃって!?ここらへん割と人いたよ!?
〈姫さん!すげーよコイツ本物のコバルオンだぜ!〉
『あ、嵐志?』
そこはかとなく状況を飲み込めていないあたしの腰から嵐志が飛び出してきた。わ、何か目が輝いている…!
〈ほう、ゾロアークか…。中々稀少なポケモンではないか〉
『いやいや確かにそうかもしれないけど伝説レベルのあなたの方がよっぽど稀少だからね!?』
〈そーそー、ちょっと悔しーけどな〉
な、何だろう…このコバルオン、って少しのほほんとしてるかも。大物になると皆こうなのかな…?
〈それよりさ姫さん、知ってるか?このコバルオンってのは聖剣士の内の1匹で、昔人間が始めた戦争からポケモンを守る為に戦った勇敢な戦士なんだぜ!〉
『何それ超カッコいい』
〈あぁ、そんなこともあったな確か〉
あれ、意外と食いつき薄いねコバルオンさん!というか聖剣士って何だろう…。その内の1匹ということは他にもいるのかな?
『…というかよく知ってるね嵐志』
〈Nんとこにいた時に本で読んだんだよ。神話みてーに書かれてたからオレもおとぎ話か何かだと思ってたけど…まさか本物に会えるとはな!〉
〈ほう、喜んで貰えるとは光栄だ〉
『あ、あたしも色々知りたいな。よかったらその聖剣士の話とか教えてくれない?』
〈ふむ…まぁ良いだろう。ここで出会ったのも何かの縁だ〉
『やった!ありがとーコバルオン!』
〈ヒナタちゃん、カゴメタウン目と鼻の先だけどどうするの?〉
『まぁまぁいーじゃん!町は逃げない逃げない!』
〈足パンパンだから町で一休みしたいとか言ったの誰だっけね〉
堅いこと言わないの雷士!伝説のポケモンと話せるなんてもう無いかもしれないんだよ!?
〈うむ…では私も人型を取ろうか。この姿で座り込んでいては目立つからな〉
『!』
光に包まれて姿を変えていくコバルオン。現れたのは実に浮き世離れした美青年でした。
「…どうした、私に何かついているか?」
『い、いえ!伝説レベルになると擬人化姿も普通じゃないなって…』
ジッと見つめられて思わず目を泳がせるあたしに、コバルオンは小さく微笑んだ。
その時何故か雷士と嵐志が不機嫌そうだったけど…どうしてだろう?
「…では何から語ろうか…。まずは我ら聖剣士のことで良いか?」
『あ、はい!』
嵐志も擬人化してあたしの隣りに座り込む。どことなくワクワクしている様子が見て取れて何だか可愛かった。
心地良い風が木々を揺らし、緑の香りを運んでくる。適度に揃えられた草の上に腰を下ろし、コバルオンはゆっくりと話し始めた。
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