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『それじゃダイゴさん、シロナさん、本当にお世話になりました!』
「いいえ、こちらこそ楽しかったわ。また会いましょうね!」
「僕も楽しかったよ、今度はホウエンにも遊びにおいで」
一夜が明けて出発の日。名残惜しい気持ちを抑えて2人に別れを告げた。
あたしの姿が見えなくなるまで手を振ってくれた彼らに思わず目頭が熱くなる。
後でハル兄ちゃんに電話しよう。ハル兄ちゃんの友達は2人共凄く素敵な人達だったって!
『いやー…それにしてもチャンピオンと会えるとか中々ない機会だったよね。おまけにダイゴさんもシロナさんもとんでもないお金持ちだったし!』
〈まぁ別荘持ってるくらいだからね〉
確かシロナさんは春と夏はサザナミに来るって言っていたなぁ…また時期になったら会えるかな。
ダイゴさんはたまたまイッシュに来ていたみたいだから…次はいつ会えるのか分からない。うん、だったら旅が一段落ついた後ホウエンに行ってみるのもいいかも!
『そしてそして、紅矢が進化したのが嬉しかったですね雷士くん!』
〈いや僕その瞬間見てないけどね。いつの間にか3人で抜け出してワイワイやってたらしいじゃんコラ〉
『いだだだ!!電気痛いってゴメンなさい!!』
あたしの髪を握って微弱な電気(静電気かな…?)を流してくる雷士は少々ご立腹らしい。そ、そんなに誘ってほしかったんだね…!良かった、雷士にも皆と仲良く騒ぎたいって気持ちがあったんだ!
〈またしょうもない勘違いしてるねアホっ子ヒナタちゃん〉
『いだだだ!!2回目!これ2回目だって!』
…鬼畜ネズミめ。
−−−−−−−−−
『あ…!見て見て雷士、町があるよ!』
海岸沿いを抜けて林道を歩いていると、段々小さな町が見えてきた。地図で確認するとあそこはカゴメタウンというらしい。
『とりあえず着いたらあそこで少し休もうか。足パンパンになっちゃったし…』
サザナミからずっと砂利道を歩き、それが終わったかと思えば凸凹とした木々の生い茂る道を歩いてあたしの足は大変なことになっている。踵は低いとはいえ、やはりブーツではこういった歩きにくい道は辛い。
『カゴメタウンまでもうちょっと…頑張ろうね雷士!』
〈そうだね。歩くのはヒナタちゃんだけどね〉
『ちょ、言わないでよテンション下がるから』
頭にいる雷士にも自覚があるらしく、実質的には歩くのはあたし1人。そして雷士はそのまま疲れたから寝ると言い出した。いやいやここまでの道中で何に疲れたの君は!?
(…はぁ、まぁ雷士のこういう所はいつものことだけどね)
そう思い直してあたしは再び林道を歩き出した。
『…よいしょ、っと!よし、もう目の前だね』
木の枝や大きな岩をくぐり抜け、そして時たま鉢合わせるトレーナーとバトルをし、とうとうカゴメタウン間近まで辿り着いた。
ちなみに早速ウインディとなった紅矢に戦ってもらった所、緑生い茂る美しい空間がまさに阿鼻叫喚(相手が)の地獄絵図へと変貌しました。
向かってくる敵を千切っては投げ千切っては投げ、辺り一面焼き尽くすという勢いで暴れ出そうとした所をあたしが必死に止めたのである。
いや…何かね、相手のトレーナーとポケモンには悪いことしたよ。進化してより強くなった紅矢は凶暴性までパワーアップしてしまったらしい。
(頼りがいはあるんだけどあの性格がたまに傷なんだよね…昨日少しだけデレたかと思えばまた噛みつかれたし)
全く、よく分からないキングだ。
『…ん?何かいる…?』
そんなことを考えながら少し拓けた道へ出ると、木の影に何やら青色の体が見えた。何だろう、あれ。
気になったあたしはソッと近付いてその正体を確かめた。するとそこにいたのはかなり大きな体躯の青い生き物。
思ったよりも巨体だったことに驚いて、あたしはつい声を出してしまった。その声に気付いたのか背中を向けていたその生物はゆっくりと振り返る。
そして…目が、合った。
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