ガッシャーーーン……


……それは数分前の騒音。

校舎2階の廊下には、粉々に砕けた窓ガラスと、そこに放たれたであろう机が、脚をくねらせた状態で転がっている。

そこには更に、嵐が通り過ぎた後のような、静まり返った空間も存在している。

微かに聞こえるのは、その惨状を見て噂をする生徒数人の囁き声と、上階から聞こえる、これまた騒音。それは天井を通して2階にも振動している。砕けて吹き抜けとなっている窓の外からは、騒音の原因である一人の男子生徒の怒鳴り声が響き渡る。

「い゙ざや゙あ゙あ゙あああああ!!!!!!!!」


シズちゃんの
腹が立つ理由(序章)



バリーーーンッッ

窓ガラスがまた一枚、犠牲となった……その男子生徒は、素手でガラスを割ってしまった為に、右手からは血が、少なからず滴り落ちている。故意的にガラスを殴った訳では毛頭ない。狙いが外れたのだ。

「シズちゃん、いい加減窓ガラス割るの止めたら?これ修理するのに使われるのは、全校生徒の学費なんだよ?みんなの迷惑だよ」

「うっせえ……てめえが居なけりゃガラス割る事も机投げる事もねえんだよ……だから、今すぐ、一秒たりとも掛けさせねえ…俺の前から消え失せろ!!!!!」

「おっと!」

男子生徒は、片手に持っている箒を、標的の足下めがけて振り回したが、標的は軽い身のこなしで飛び跳ね、鮮やかに男子生徒の乱暴な攻撃をかわしている。

彼らの名は平和島静雄と折原臨也。二人は、ここ来神学園では知らない者など居ない程の有名人だ。…この状況を見れば解る通り、二人に使われる「有名人」という言葉の中に、良い意味なんて、探すだけ無駄だと思う……学校で起こる騒動の原因の殆どが、彼らにあるのだから………

―――――

「死ねええええ!!!!!」

「はははっ、またハズレ♪」

折原臨也は、平和島静雄の攻撃をかわしながら3階、4階と、校舎の上階へ階段を駆け上る。平和島静雄が箒を振り回す度に物は壊れ、拳を振るう度に血は流れた……

階数に比例して血の気が増す彼に気付いてか、折原臨也は先程より急ぎ足で残り少ない階段を上り、とうとう最上階の扉を開け放った。

土砂降りの雨、太陽は完全に隠れ、昼時だというのに辺りの薄暗い屋上……平和島静雄もそこに追いつきボロボロで使い物にならなくなった箒を投げ捨てた。二人はずぶ濡れになりながらも互いに向かい合った……

「ここまでだ……」

「そうかな…?」

雨音にかき消された折原臨也の言葉なんて、平和島静雄の耳には入らない。聞くだけ苛立ちが増すに決まっているのだから、言葉を終える前に、彼は地面を強く蹴り、距離を詰めた所で、堅く握りしめた右拳を折原臨也の顔面に叩き込んだ。

キィーーーンッ

その瞬間鳴り響いたのは、人を殴った時の破裂音ではなく、一瞬耳をつく「金属音」だった。

平和島静雄は、雨で濡れた視界に目を凝らすと、目の前に折原臨也の姿はなかった。

「ここだよ」

と、声のする方へ振り返るとそこには、右手に小型ナイフを握る折原臨也の姿があった。ナイフからは、薄赤色の液体が滴り落ちている。それは雨に混ざった…血液だ……

平和島静雄は、左脇腹の違和感に気付いた。その部分だけシャツは赤く染まり、その範囲は段々と広がっていく…

感じる筈の痛みはたいしてない。身体が丈夫ということもあるが、それ以上に怒りが勝っているからだ。傷を付けられたという悔しさもあり、即座に折原臨也を睨みつける。気温も下がり、凍りついた空間の中、そんな彼を見ながら折原臨也は口を開いた、

「こんなんで倒れる奴じゃないって事は分かってる。でも、俺にも色々と用事があってねえ、君に付き合ってる時間はあんまり無いんだ」

「てめえ、逃げんのか…!!!」

「違うよ。また今度遊んであげるからさ、」

「ふざけんなっ…!!!待ちやがれっ!!!!!」

再び襲いかかろうとする平和島静雄の攻撃を軽々とかわし、向き直る前に折原臨也は階段を勢いよく駆け下りた。平和島静雄が向かう頃には、既に彼の姿はなかった……

「……クッソ…!!!」

バンッと、金属のドアに拳を叩きつける鈍い音が、階下へと響く。

「次会ったらぜってえぶっ殺すからなっ!!!!!い゙いぃざあぁや゙あ゙あああぁ!!!!!!!!」

ドアを叩くよりも強く大きな声は、空気を振動させ、彼の耳にも届く。それを聞いた彼は、一人、笑みを浮かべた……。


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