君が知ってる | ナノ





それは何時からだったか、そんな事は忘れた。もしかしたら初めて会った時からだろうか。白竜が剣城京介ばかり追い掛けているのは。共に目指そうと約束した究極だって、結局は彼に振り向いて欲しいから、という口実だ。本人は気付いていないだろうが、僕は知っている。チームメイトも何名か察して、たまに僕を哀れむように視線を向けてくる事もあったが、そんなのどうでもよかった。いずれ消える自身だ。報われなくたって、白竜が幸せならそれでいい。白竜が幸せなら僕はそれだけでいい。


「それって我慢してるってことだよな」

上が用意してくれた、部室に丁寧に並べられたスポーツドリンクの一つを乱暴に取り、一口だけ飲んだ後白竜はそう言って微かに濡れた唇を拭った。僕は生身の人間ではないけれど、食料を口に出来ないわけではないし、さすがに厳しい練習を続けた中、水分補給をしないのは僕の存在を知らない者から見れば違和感そのものである。だからといってカミングアウトするのも、なかなか気が引けるものだ、というのもあるけど何より皆を怖がらせてしまうかもしれない。これは僕なりの考えだ。とりあえず、スポーツドリンクを摂取しようと手を伸ばしたが、白竜の呟きにそれどころではなくなってしまった。僕の動きを石のように固まらせた当の本人は恰も自分は関係ないといった丸い目をして、挙げ句「どうかしたか?」なんて聞く始末。白竜がこんな事を言うのは、きっと昨日の事。


練習、休憩、練習、たまに試合。そんな同じ様な毎日を繰り返してじわじわ熱を帯びていくものが一つあった。僕らが、白竜が究極に近付いていく度、白竜が剣城京介に一歩一歩追い付いていく度、どうしようもなく胸が苦しくなる。あの筋肉のついた白い腕を捕まえて、鎖でも何でもいい、手元から離れないよう繋ぎ止めてしまいたい、そんな独占欲が思考を犯し始めるようになった。理性のままに行動してしまえば、白竜はきっと悲しむ。そんなの、僕は望んでなんかないし、嫌われてしまうかもしれない。それが怖くて、バレないように同じ様な毎日を繰り返したけれど、妙に避けるようになってしまい「言いたい事があるなら言ってくれ」と、ほんのり心配付のお説教をされてしまった。

「僕はさ、白竜。君の事が好きなんだ。君が剣城京介を慕うように、僕も君を慕っているつもり」

こう答えた僕が悪かったのかもしれない。何でもないよ、とでもはぐらかしておけばよかった。

「……今のなし。取り消し。これは僕の独り言だと思ってくれていい。君が幸せなら僕はそれでいい」

視界の端に見えた、紡がれた唇に地雷を踏んだと咄嗟に思った。雪崩のような後悔と心臓を冷たい手で包まれたようなヒヤリとした感覚。言い訳みたいにポロポロ出てくる言葉に、我ながら驚きを隠せなかった。お互い居心地が悪くなって、あの時は逃げるようにその場を離れた。あんな顔をした白竜を見るのは初めてだった、そんな日であった。


「シュウ、我慢はよくないぞ」
「………それってどういう意味で言ってるか分かってる?」

赤い瞳をゆっくり細めて眉を潜めた僕を優しく見据える。愛しそうに、なんて、自惚れるわけではないけれど。今は剣城京介じゃなく僕が愛されているような錯覚。ぬるま湯に浸かったような思いに駆られる。

「俺はシュウが幸せならそれでいい」

本当に我慢していたのはどちらなのか。そんなことを考える暇もなく、手は白竜の頬に触れていて微かに震える唇に自分のそれを押し付けてやった。



君は知っている。僕が知らなかったことを。


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