ド否定無限LOOP | ナノ





今日一日、クラスで何があったのかを書き綴っていく機械的な作業を終えて、小さく溜め息を吐いた。どうして係でもない僕がこんな事をしているか、自分でもよく分からないけれど、きっとはっきり物を言えないこの性格が原因だろう。嫌だ、やりたくない、と断ってしまえば良かったものの、僕が口を開く時にはご丁寧にボールペンを添えた日誌を押し付けられてしまった。この前だってそうだ。いつだって損をする。クラスの連中はきっと僕が大人しい性格なんだと理解しているからこそ、僕に頼み込む。好い人になりたいわけでもなければ、世話焼きでもない。仕事をしたいなんて率先して発言したこともない。どうして僕ばかり。

気分転換に腕を伸ばす。刻みのいい音がした。肩、こったんだな。そう思いながら硬くなった体を伸ばす。視界の隅に見えた時計の針は、もうすぐ部活が始まる時間を指していた。走ればぎりぎり間に合うって所だろう。

どうしようか。

ぽつり、思った。なんだかサボりたい気持ちになる。サッカーは好きだし、部活の皆と過ごすのも楽しくて好きだ。それでも何となく休みたい、という感情が生まれる。特に意味はないけれど休みたいと思ったから休む。いつだって欲に忠実に過ごしてきたつもりだ。だったら嫌だ、とたった一言だって言えたはず。相手があまり話した事のない人物だったからだろう。

言えないなら黙って物事を進めた方がいいんだろうか。だけど、誰でもいい誰かに従うようにぼんやり流れるように過ごすなんて、ごめんだ。考えがぐるぐる巡る。生きるって面倒だ。

「しにたいなぁ」

自分を否定してみた。別にこの場で舌を噛み切ったり、カッターを手首に押し当てたり、窓から身を投げたり、そんな行為するつもりは毛頭ないけれど、なんだか全てを投げ出せるような気がした。リセット出来るような、「今の、本気?」気が、し、た。

「浜野くん?」

ふいに声をかけられて驚いた。扉の方に振り向くと練習着に着替えた浜野くんの姿が。さっきの独り言を聞かれたんだろう。彼は険しい顔で僕を睨んでいた。浜野くんも、こんな顔するんだ。他人事のように目を白黒させていると「速水ってば、」ずかずか教室に入ってきて肩を強く掴まれる。大きな手で、骨を折られる、と思うほど痛い。咄嗟に「冗談です」と呟けば、彼の表情は一転。「よかったあ」普段のふにゃりとした優しい顔立ちとなる。

「本気でしんだらどうしようかと思った」
「そんな物騒こと、しませんよ」
「だろうなぁ、速水だもんなぁ」

何を分かりきったように頷いているんだ。何だか居心地がいいような、悪いような、心配してくれた事は嬉しいけれど、けれど。

「ぶ、部活はどうしたんですか」
「抜けてきたの!速水ってば、なかなか来ねーんだもん」

僕を待ってたんだ。何となく、ぽっと出で休みたいと思っていた僕を。あ、今何となく、部活に行きたいって思った。先程から僕の思考回路は浜野くんの言葉一つ一つによって変態を遂げている気がする。この気持ちは一体なんだろう。世間に晒してしまえば、きっと意味を決め付けようとするんだろう。でも、今は、まだ知らなくていい。

「すぐ行きます」

自惚れだったら恥ずかしい。ましてや同性。こんな気持ちに意味など持ってはいけない。否定しなければいけない。
彼とは友達。友達。友達。やはり生きるって面倒だ。


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