あんたは間違っていると、片目の隠れた奴はそうはっきりと俺に言った。新しくきた監督の影響か、はたまたあの一年生の松風の影響か知らないが、丸い反抗的な瞳が落ち着いた様子で見据えている。眉間に皺を微かに寄せたのは水晶体に写った俺の姿。確かにそうだ、と我ながら突き刺さる言葉が癪で仕方ない。

そんな生意気で俺よりも小さな唇を、自分のそれで塞いでやった。
だから何だよ、と耳元で囁いてやれば、褐色の肌はじわり、赤く染まった。怒りの色か欲情の色か。そんなことはどうでもよかった。「な、」言葉を遮るようにもう一度唇を重ねてやる。逃げられぬよう後頭部と腰に手をやると、ドンと強く胸を叩かれた。軽く、軽く触れるだけ。最後に舌を絡ませて、深く。胸を叩く手が震えていても構わなかった。唇から、耳元から、首筋から、何処からでもいい。俺で埋め尽くす事が出来るのなら、何処からでも。

すぐに切れてしまいそうな二人を紡ぐ透明な糸が、ぽたり、音をたてて地に落ちた。腕の中にある覇気のないだらりとした身体を見て自然と笑みがこぼれる。荒い呼吸の波を徘徊する、鮫になったような気分だった。ゆったり堕ちてくるお前を、喰らい逃さぬようにと。

「南沢さん……気づいているなら、戻ってきてください」

掠れた小さな声にもう無理なんだと踵を返した。


水葬

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