円秋 | ナノ



きらきら光って、藍色の空に浮かぶそれは、まだ何にも知らない私にとって心底特別なものに見えた。シンデレラのガラスの靴に埋め込まれたたった一つの宝石。そんな風にも見えていたのだ。
それが宇宙の塵だと気付いたのは、小学生の頃。理科の授業で先生は「星は何で出来てるでしょうか」と唇の端を持ち上げてにやりと笑った。興味津々な私の黒い瞳をじぃっと見て、これでもかというほど大きな声で言った。「ただの石ころさ」
いま思えば、理科の不思議さを教えてくれた、いい先生だった。しかしあれは宝石だと夢見ていた私にとって、ひどい言葉であった。先生の言葉はナイフのようで幼い胸を抉ったのだから。

「きれーい」

キャラバンの上に寝そべって、夜空一面に広がる星に胸をときめかせた時がある。ぴゅう、と吹く風は少し冷たく、ジャージの繊維を軽々と通り抜けて体が震えた。
隣には円堂君が膝を折り曲げて座っている。同じように空を見上げてぼんやりとしていた。きっと他でもない大切な人の事を想っているんだろう。優しく流れる茶色い髪と横顔が、そう語っている。
私の言葉には、何にも反応してくれない。悲しくなって、唇をきゅっと閉じる。円堂君が私を見ていない事に気付いたのは、ほんの少し前。きっと鈍い彼のことだから、自分では気付いていないんだろう。私がいまため息ついたって、何にもならない。いま隣にいるのに、遠すぎる距離を感じてじわりじわり、涙が滲む。一番星がうっすらボヤけて見えた。
ただの石ころなままの私ちとって、きらきらと星のように光る彼女がうらやましい。

「円堂君」
「ん?」
「肩、埃ついてる」
「どこ?」

きょろきょろ自分の肩と私の目を交互に見て、埃を探す円堂君の姿が少し可笑しかった。ふふ、と笑って「ここ。小さいから、見つけにくいだろうけど」そっとつまみ上げようとすると、指先が広い肩に触れてドキリとした。やっと私達は隣にいるんだと、現実味を持って感じれたのだ。

「秋はよく見てるよな。ありがとな!」

こうでもしないと触れることの出来ないから、なんて口が裂けても言えない。どういたしまして、と出来るだけ笑顔を作り再び星に目をやった。
光れなくてもいい。今はまだ二人きりの時間を感じていたい。せめて触れた指先の熱が冷めるまで。



song by aiko
「アンドロメダ」


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