エスミス | ナノ

※ミストレが援交




窓越しから地面に水が落ちる音が聞こえる。梅雨は開けたと言うのに、いつまでこの雨は降り続けるのか。そんな何でもないような事を考えながら、はだけたワイシャツのボタンを掛け直す。一つ一つ丁寧に元に戻す度、自分がやっている事が物凄く遠いものに見える。視界の端に見えた腹のキスマークが昨夜は夢ではないと確信させた。痕はつけない交渉だったのに。今度会ったら二枚高くしてやる。昨夜共に過ごした顔も覚えてない男に小さく舌打ちする。

ただの好奇心で始めた行為だが、意外と楽なものだ。顔がいいからか高収入だしベッドで揺すられるだけ。たったそれだけ。痛みなんて大分前に忘れた。最近となればむしろ快感を得られる。世の中では援交だとか何とか言われるが特に気にならない。勝手に言わせておけばいい。俺は俺で勝手に過ごしているんだから。

「……また下らない事してたのか」

そう言って部屋に入ってきたのは何とも勝手で面倒くさい男、エスカバだった。勝手にしろとは言ったがこいつは例外である。こいつはこうして朝から俺の部屋に来てはぶつくさ言ってくるのだ。何しに来たんだと視線で訴えるとエスカバは分かりやすく大きな溜め息をつく。溜め息つきたいのはこっちだ。

「毎晩毎晩……軍人が恥ずかしくねぇのかよ」

残念、毎晩じゃない。揚げ足を取れば後々面倒くさいしこいつが言いたい事は後者だろうからあえて言わないでおく。軍人が恥ずかしいも何も支障はない。任務も的確にこなしている。きっとエスカバは小学生の頃、バレなきゃいいなんて都合のいい言葉を知らなかったに違いない。

「いいじゃないか、別に。エスカバこそ勝手に人の部屋に入るなんて、軍人として恥ずかしくないかい?」

急に押し黙るエスカバを横目に男の匂いがほんのり残ったシーツを片付ける。エスカバにはこの行為を秘密にしていた。俺の気まぐれだったんだろう。こいつにはバレたくない。隠す事で必死だったけれど帰りが遅れた男と鉢合わせしてしまい水の泡となった。あの時エスカバはこんな風に押し黙っていた。何か言いたそうで、言わない。そんな女々しい行動が、嫌いだ。

「こんなことに、意味、あんのかよ」

怒っているようにも、泣いているようにも聞こえる。震える声音に体が勝手に動くことを止めた。電源を切られたかのように、プツン。押し黙っているのは俺の方だ。

「それとも、欲求不満なだけか?」

勝手すぎる発言。それじゃまるで俺が女々しいみたいじゃないか。しかし肯定も否定も出来ない。はっきり言ってしまえば自分でもどうしてこんなことをしているのか分からなくなってしまったのだ。何が悪くて何がイイのか。そんな感覚さえ軸がぶれている。ベッドの軋む音をBGMにして二人で軽やかにステップするみたいに、またある夜は弾けるクラップダンスのように夢中に踊る。あんなの性欲処理にしかならない。本当に俺が求めているのは、一体。

「……図星みてぇだな」
「は」

我に返る暇もなく襟を乱暴に掴まれ、瞬きをする時にはもう奴の唇は俺のそれに重ねられていた。下手くそで歯がガツンとぶつかる。たったそれだけのキス。それなのに段々と離れるエスカバの顔は真っ赤で、同時に悪戯を成功させた子供のような笑みを浮かべていた。俺はというと、トカレフで胸を撃たれたような思いでいた。あんな子供っぽいキスに、何を動揺してるのか。

「真っ赤になってやんの」
「………君もだろ」

相当自己中なキスだけど、こんな青春ごっこの方が俺には合ってるらしい。


song by 初音ミク
トカレフと少女

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