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「一緒に帰らないか?」

付き合い始めて三ヶ月。家が近いというのもあって、必然的に二人で帰っていたのだが、こうして神童から誘いが来るのは珍しい。ましてや同性同士付き合っているという事を、公に晒したくない神童のことだから、その手の匂いを醸し出す怪しい雰囲気は作らなかったのに。あまりに急で少し驚いたけど、嬉しいことに変わりはなかったため、勿論二つの言葉で返した。


本当に、本当に珍しかったため、普段とは違う帰り道になると、ぼんやり自惚れていたが、そんなことは全くない。他愛もない会話。人気のない住宅街。冷たいアスファルト。道に見える電信柱と大差ない色をした空。右にはマフラーをぐるぐるに巻き付けた神童。何時も通り。過不足のない下校である。学校を出る前の浮かれていた自分が、少し恥ずかしい。でも、まぁ、神童と帰れることに変わりはないし、別にいいか。なんて、冷静なふりをした。


歩き続けて数分、神童の家が見えてきた頃。やはり一度期待すると、なかなか冷めないもので、あれから話を交わす度何かが起こるとソワソワしていたが、結局何も変わったことはなかった。神童は息を白くさせながら普段通り接して「あのさ、霧野」「ん?」

ぴたり、足が止まる。どうしたのかと思い近付くと、顔を逸らされてしまった。よく見ると、耳が赤い。寒さのせいじゃないと確信したのは、付き合い始めて三日もしない時、ふいに好きだと言ったら耳を真っ赤にさせて顔を逸らされた事があったからだ。何かある。ぐずり、胸の中で熱い何かが震えた気がした。

「なに」

まるで硝子細工を扱うみたいに、出来るだけ優しい声色で神童の言葉を待った。待つことがこんなに楽しいと感じるのは、多分これが初めてだと思う。微かに震えている指先を見て握り締めてやりたいと、愛しさが込み上げてくる。

「俺たち、さ」
「……うん」
「付き合い始めて、結構たつよな」
「……うん」

その指先が、ゆるり弧を描きながら俺の方まで伸びてくる。真っ赤、だ。

「手を、繋いでも、いいか……」

急転直下。ずくずく沸騰し始めていたそれは熱を与えすぎて、爆発してしまった。冷静なふりなんて、出来ない。
神童がそうであったように、気が付かない内に俺の指は赤くなっていた。じわじわ込み上げてくる緊張と嬉しさに酔ってしまいそうになりながら、お互い指をそっと絡める。これって、確か恋人繋ぎってやつだよな。思わず口元が弛んでしまう。神童を盗み見すると、繋いだ手を見て目をぱちぱちさせながらも、どことなく嬉しそうに見つめていた。

「……帰ろっか」

もどかしくなって声をかけると、聞こえないくらい小さな声でうん、とだけ返ってきた。神童は頑張ってくれた。今度は俺の番。特別な帰り道を、このまま終わらせはしない。






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