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てきぱきとした無駄のない手付きで乱れた前髪を直していく姿に目を奪われた。鏡で一度確認し、やっと終わったと思えば、再び指を世話しなく動かしていく。何度も何度も繰り返し、納得のいく形になれば鏡に向かって柔らかに微笑んで、終わり。

今日は学校の創立記念日だから出掛けよう、と朝から南沢先輩に所謂デートとやらに誘われて電車に揺られること数分。目の前に座った女子高生の様子が気になって仕方がない。

南沢先輩とはいうとぼんやり窓の外を眺めたり自由に過ごしていたので、別に気を使って話しかけなくてもいいと判断した。

女子高生は携帯を鞄から取り出すと、嬉しそうに弄り始めた。電車に乗って携帯を触る人は大体無表情だと思っていたため、私にとって彼女の姿が不思議でしょうがなかった。身嗜みにしても長すぎるあの行為だって不思議。学校にいくのにどうしてそんなにも張り切るのだろうか。

まだ女子中学生の私には彼女の気持ちが分からない。同じことをしたら何となく分かるだろうか。そう考えて、見よう見真似でポーチに入った手鏡を取り出し前髪を整える素振りをする。お母さんが女の子だから、と持たせてくれた使い道のなかった手鏡。なるほど、こうした時間に使うんだ。

ちらりと鏡の端に写った、南沢先輩の顔は奇妙なものを見るような目だった。私が鏡を使うことがそんなに珍しいんだろうか。まじまじ見入る先輩は、私とばちりと目が合ってから、やっと口を開いた。

「……なにしてんの」
「なにって……」

身嗜みです、とは違う。だからと言って正しい答えも分からない。滑稽なことに自分がどうしてこんなことをしているのか、全く分からないのだ。素直にわかりません、なんて答えたらきっと意地悪されるに違いない。
適当な答えを見出だそうと思考回路をぐるぐる掻き回していると、先輩は何かに気が付いたのか「あぁ、」と呟いて口角を上げて笑ったと思うと、優しく頭を撫でられた。整えた前髪がくしゃり、崩れる。

「お前はそんなことしなくても可愛いよ」
「…………はぁ」

先輩が急にそんなことを言う意味も、彼女があんなに嬉しそうに微笑んだ意味もよく分からないけれど、いつか私もああいうことをする日がくるんだろうか。
そうなんですか、と恥ずかしい台詞を吐く先輩に適当に受け答えしつつ、今は別に分からなくてもいいやと、手鏡を鞄にしまった。






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