■ 勘違いは勘違い?
「ダビデ、ちょっと来て〜」
「うい、…何?」
「これ取って!上に乗っけたまま男子が放置したみたいでさあ」
現在、六角では清掃の時間である。先生が決めた班ごとに行っているのだが、わたしはこの天音ヒカルと同じ班なのだ。超イケメン。声もいい。しかも優しい。見上げると顎のラインが通っていて眼福である。
「ああ、雑巾か」
「使ってないからって投げて遊んでたみたい」
「ああ、見てた。…ん、取れた」
「ありがと!」
こうして少し話せるだけでも心が踊るのだ。もうほんとになんてかっこいいの!見た目は彫刻品と言われていても、中身が駄洒落好きの変人だからか話しやすく、特に女子の中でもわたしとはよく話す方だと思う。ていうか、わたしがめっちゃ近づきに行ってる。下心ありありで。
「そういえば、今度テニス部大会なんだよね?」
「ああ、よく知ってるな」
「佐伯先輩のおかげで、女子のテニス部連絡網が充実してるんだよ。イケメンってすごいねえ」
まあわたしは佐伯先輩より君のが好きなんですけどね!と含みを持たせたつもりだが、どうせ彼には伝わらない。実際伝わってしまっても困るからいいんだけど。
「やっぱりサエさんはモテるのか…」
「っていうか、わたしの友達が佐伯先輩のファン?だから情報入ってくるんだけどね。…佐伯先輩って彼女いるの?」
「…気になるのか?」
「そりゃあ、女の子だし?」
そう言うと、ダビデはむっという顔をした、気がする。いやいや待て待て、これは佐伯先輩ひとりがモテているという嫉妬である。もう、わたしの言葉で一喜一憂してるのかなって勘違いしやすいこの緩い脳みそが困る!
「なあ、どうしたらモテる?」
「えっ、モテたいの?」
「まあ、ちょっと」
「え…、えっと…」
今でもモテてるんだよ!!!とは言えないし、一緒にモテる方法を考えれば同じ空間に居る時間が増えて嬉しいのだが、それによってほんとうにモテはじめても困る!今日はラッキーデーだって思ってたけどアンラッキーすぎないか!?
「た、例えば、みょうじのタイプとかでもいいから」
「えっ!…えっと、優しい人かなあ」
「サエさんは優しいよな…」
「あっ、あと面白い人!?」
「面白い…、なるほど」
「…ダビデは?」
「え?」
「ダビデの、好きな女の子のタイプは?」
きっ、聞いてしまった!
「…俺の駄洒落に笑ってくれる子」
「範囲ひろっ!」
「いや、みょうじよりは狭いと思う」
「ま、まあね…」
いやしかし、ダビデのタイプって割とどんな子でも入るだろ!わたしはダビデのギャグ好きだから当てはまってはいるけど、そんなこと言ったら佐伯先輩のファンである友人だって笑っていた。
「もっと具体性をくれ!」
「えっ!」
「この学校で言えば誰とかないの!…えっ、いやまってそれは駄目だ」
「な、何だよ…」
この学校でこの子がタイプとか言われたらそれほぼほぼ好きと同義じゃんか何言ってんだ自分!馬鹿め!
「お前みたいに駄洒落に笑ってくれる奴がいい…」
「…!?」
カッ、と顔が火照った。だからこいつは!!!勘違いすることばっかりいいやがって!!!
「それは分かったってば、てかわたしじゃなくても笑ってるし、自信持て!」
「いや自信持てないけど…、それより、みょうじの具体的なタイプ教えろよ」
「えっ!」
こっ、これはバレてるのか…!?誘導尋問ってやつ?いやダビデはそんなに頭よくないはず…、そんな計算はできない。ってことはここで同じように返してもばれない!?
「だっ、ダビデみたいに面白い人!」
「えっ!?」
わたしと同じ反応すんな!と思って彼を見上げると、顔を真っ赤にして目線をさまよわせていた。ほらまた勘違いさせやがって!心臓ドキドキして痛いんだが!
「だ、ダビデ。その反応はちょっとあの、勘違いを生むと思うのでやめたほうが、」
「お前もだろ…」
「は?」
「お前も、顔真っ赤で、その、かわいい」
「っ、は!?」
「お前が、好きなんだ」
俺の勘違いじゃなければ、その、お前も。
「勘違いだけど、勘違いじゃなかった…!?」
「えっ、もしかして俺の勘違い…?」
「それは勘違いじゃないです!…いやちょっと待って!落ち着こう!無理!恥ずかしい!」
ダビデとわたしの馬鹿みたいな勘違い劇。教室の隅っこで騒いでるわたしたちは、数分後にきちんとお付き合いを始めました。
「今日、ツキ、あったんだ俺」
「付き合ったに掛けてくれてるんだろうけど、ちょっと自分のことだし恥ずかしくて笑ってらんない…」
「…めっちゃかわいい」
ダビデって、口説き文句をぽろぽろ溢すから困る!
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